■ 過ぎたるは猶及ばざるが如し。

孔子 『論語』

物事は中庸がよいのであって、過ぎたのは及ばぬのと同様よくないものだ。


子張、子夏という2人の弟子の賢さを問われた孔子が「子張は度が過ぎている。子夏は度が足りない」と答えました。「では子張が上ですね」と重ねて尋ねたときに、孔子が語ったとされる言葉がこれです。

初心者は、マジックをたくさん見せれば見せるほど客が喜んでくれると考えがちですが、それはまったく逆です。相手に強い印象を残したいのであれば、演じる作品は1ないし2つ程度にしておくほうが効果的です。3つ以上のマジックを見せ、その全部を客がきちんと覚えていてくれることは、実は非常に稀なのですから。

上に書いた指針は、マジックをふと見せることになった状況を想定しています。あらかじめマジックを見せると予告した場所に客が足を運んでくれたような場合は、いくつかの作品を組み合わせてもう少し長い演技をしてもよいと思いますが、それでもやはり「少し物足りないかな?」と感じるくらいで切り上げるほうがよいと考えます。

ある程度マジックの経験がある人なら「見せすぎて失敗してしまった」反省が一度ならずあることでしょう。おいしい料理は、もう少し食べたいと思うくらいがちょうどよいのです。腹八分目なればこそ余韻を味わうゆとりも生まれるというもの。満腹にすることが必ずしも客の満足につながるとは限りません。