■ 強い奴は打つ前に考える。僕らの碁は打ってから考える。巧く行かん訳さ。

三木清 『別冊囲碁クラブ』


哲学者・作家である三木清が、趣味の囲碁について語った言葉。マジックの理想型の1つは「これから何かが起こると客が身構えたときに、実はすべての準備が終わっている」というものです。演者が巧みに伏線を張り終えた後で、誰かの口から「そうだ、マジックでも?」という一言が出たならば、戦う前から勝利が約束されているも同然です。

よく知られたMax Maliniの逸話に「偶然通りかかった道端で、裏向きに落ちていたカードのインデックスを言い当てた」というものがありますが、これなども万策を駆使して客を網に掛ける典型です。そのカードが演者自身によって前日に置かれたものだったと、裏を明かされればバカバカしくも思えるでしょう。徒労に終わる可能性のほうがはるかに高い、効率の悪い仕掛けに思えますが、それが見事にハマったときの効果は労力を補って余りあります。この逸話の場合も同伴者の驚愕は想像に難くありません。

初心者の場合は、マジックを見せてくれと頼まれてから頭の引き出しを順に開けてネタを探し、その道具を準備してといった状況が多いと思います。そうなるとマジックを見せ始める頃には客の目はすでに虎視眈々とタネのありかを探っているはずで、やりにくいのも当然です。
 対して中〜上級者は引き出しが多い上に準備も周到に行いますから、偶発的な要素がほとんどありません。「さて何を見せようか? 何も用意がないから困ったなあ…」といった独り言をつぶやきつつ、実は3段階くらい先の準備までしてあることだって珍しくないのです。マニアって嫌な人種ですね(笑)。