■ よき友をもとむべきは、手習、学文の友なり。悪友をのぞくべきは、碁、将棋、笛、尺八の友なり。これは知らずとも恥にはならず。

北条早雲 『早雲寺殿廿一ヶ条』


北条早雲は駿河から小田原にかけて勢力を広げた武将。高い地位を手に入れた後も自らの労苦を忘れず、領民や配下の諸将に虚言を労することなく誠実に接したために、信頼も厚かったと言われています。

北条氏の家訓から引用した上の一節は、友人の選び方に関しての指南です。「よい友人を選ぶのであれば、仕事や学問の友と付き合いなさい。悪友を避けたいのであれば、趣味の友を避けなさい。囲碁や将棋、笛、尺八などは知らなくても恥ではないのだから、そんな友だちは避けるようにしなさい」ということです。

非常に耳に痛い正論ではありませんか。だいたいマジックという趣味は相手を騙す方法を追究する不健全な嗜好ですから、それを共通の楽しみにして集まっている輩なんてロクな連中ではありません。いい歳の大人ならば、奇妙な玩具を囲んで頭を突き合わせ「これは巧い方法だねえ」などとニヤけている姿が、世間の常識人にどのように映るかを考えるべきでしょう。名将の家訓に諭されるまでもなく、友人は仕事や学問を通じて得るに越したことはないのです。

実は私にもマジックの友人が少なからずおり、彼らにはこれまでずいぶん多くの時間と金銭を浪費させられました。さほど好きでもないお酒をたくさん飲まされたり、言葉巧みに高価な限定品を購入させられたり、とても迷惑なことばかりです。しかしもっとも恐ろしいのは、その悪友たちとの付き合いが今後も当分続くであろうこと、そして私の本心がそれをまったく嫌がっていないことなのです(汗)。