とは、キスまではした・・・。
抱きしめあったり、じゃれあったり深い仲にはなってきている。
徐々に、徐々に・・・。

好きすぎて、大切にしたくて
いつものペースでコトを運べない。
もう一歩踏み出したい・・・!



”本当はもっと手を伸ばしたいんだ俺は!!”
心の奥でめいいっぱい叫んでみる。
ふたり並んでソファに座って、俺は映画に夢中になっているの肩に腕をまわしていた。
”こんなに大きく叫んでるんだから、に届いてもおかしくないんだけどな・・・”
とは反対に自分の世界に夢中になっていた。

「はぁ・・・」
言い出せないモヤモヤは溜息となって口からこぼれた。
「この映画面白くなかった?」
は不安そうに俺を覗き込んだ。
「あ、あぁ・・・いや。面白いけど?」
「うそ。さっきから溜息ばっかり。」
「そんなコトはない!さぁ!続きを!」
そう言ってテーブルにおいてあるバケツサイズのキャラメルポップコーンを持ち上げようとした。
「もう、おわってるじゃない・・・」
「?」
何がおわったのかと、テレビに視線を移せばすでにエンディング。
いつもなら映画がおわるまでにはふたりで食べつくすはずのポップコーンが残っていた。
好物を口にするのも忘れて、己の欲望を満たす方法を探していたという訳か。
申し訳なさそうにを見ると、大きな溜息をもらされた。
「あったかいコーヒーもってくる。」
立ち上がった姿を見送ると、俺の視線に気がついたかのようなタイミングでは振り返った。
「ミロったら、最近ふたりでいても何だかウワノソラ・・・」
もう一度の口から、不満が盛大に漏れた。

”だから!それはのこと考えてるだからなんだよっ!!”
決して表には出せない男の妄想を、全部ぶちまけてやりたいと思った。
”もっとキスさせろ!”
”○×△さわりたい!!”
”今夜泊まってもいい?”
願いをあげればキリがない、言葉にできないものばっかりだ。
”正直に言ったら、全部させてくれるのかよっ?!”
ちょっと不機嫌になったミロはゴロリと横になった。
耳を澄ませば、コーヒーメーカーをセットする音が聞こえてくる。
の部屋、ふたりきり・・・
こんな好都合な条件を、躊躇する自分がもどかしい。
欲望を忘れろと言い聞かせ、の機嫌を直す方法を考えようとした。

”あ・・・”
ミロの鼻をくすぐるものがある。
”そうそう、この香り気になってたんだ。”
に気づかれないようそっと身を起こし、無防備にも開かれっぱなしのドアへ歩をすすめる。
”この香りは明らかに香水で・・・でもが香水をつけてきたことなんてない。”
何度も部屋には来たが、毎回尋ねようとしては忘れていた疑問だった。
寝室は、
クイーンサイズのベッドがヘッドの部分を壁に寄せて中央においてあり、
両脇にテーブルとランプ。
リネン類はそうでもないが、置いてある家具などはちょっとお姫様シュミっぽかった。
”自分の気に入ったものには金をかける”そんな感じで、安っぽいモノはおかれていない。
家具だとかアンティークだとか、そういうのはわからない俺でも、高めのモノくらい見分けがつく。

そして気になる香りの発生源だが、この部屋全体に広がってはいるが
どうやらベッドから・・・らしい。
サイドテーブルの上には香水の瓶がふたつ。
蓋はとらずに、それぞれに鼻を近づけた。
真っ赤なかぼちゃ型の瓶のほうからは、バニラのような甘い香り・・・
同じく赤い瓶だが背の高い方からは、反対に男もののスッキリとした香り・・・
薄暗くてよくは確認できないが、たぶん有名なブランドだ。
女ものの香水はわかる、でも何故男ものの香水が?
”誰かがここに来て忘れていった?いやいや、がそんな浮気するわけない、・・・・よなぁ?”
てにとったボトルを放すことができない。

「ミロ?・・・何してんの?」
「あ、いや。勝手に入ってゴメン!」
”女の寝室に勝手にはいるなぁーーーーー!!”
罵声が飛んでくる覚悟を決めたが、いつまでも静まり返ったままだった。
「怒らない?」
「別に。でも、それがどうかしたの?」
手にあるボトルを指差して尋ねた
の部屋に来る度に気になってたんだ。たまーに香水の香りがしてたから・・・。」
「うん。つけてるもの。」
「でもからは香ってこないぞ?」
鼻を近づけてクンクンさせた。
「だって寝るときだけだし。」
「寝るときにつけても意味ないだろ?」
「ううん。あるの。」
「香りをまとってると、よく眠れる。」
そう言っては俺に手を差し出し、ふたつの香水の瓶をわたすよう催促した。
「でも、男物の香水は必要ないだろう?」
「あら、何か疑ってるの?」
「いや。」

を自分だけのモノにする絶対の自信。
に言い寄ってくる他の男の存在など気にしたこともなかったが、ふたりの仲が安定してきた
今頃になってこんなもの発見して。
”完全にオレノモノじゃない”ってことに気がついて、
自信だけじゃなくて、同時に不安もあるんだってことに
束縛の鎖をきつくしたくなる。

不安と嫉妬をみつめている俺を、はからかうように観察していた。
「この男ものの香水はねぇ」
ポンッと軽い音がして

「シーツにつけてるの。」
メイキングされた布団をめくってシーツにシュッとふきかけた。
「シーツに?何でまた・・・」

「私にとってこの香水はミロの香りなのよ・・・」
そういってベッドに腰掛けると、そのまま後ろに倒れこんで横顔をシーツに軽く押し付けた。
そうやって、”俺の匂い”というやつに身をすり寄せて目を閉じるが綺麗で・・・
「こうやってベッドからミロの匂いがすると抱きしめられている気分になれるでしょう?
ずっと一緒がいいから・・・」

・・・」
「どんな小さなモノでもいい。あなたを感じられるものを全て集めて・・・」



「あなたに溺れるの。・・・自分ひとりの時くらいそんなこと夢見てもいいでしょう?」



”あなたに溺れるの・・・”




そんなの呟きに本来の俺を取り戻すのは、単純すぎるだろうか?
「なにも幻想に溺れることはない。決して触れることの出来ない夢幻より、
目の前にいるこの俺に触れろ・・・」
かけた重みでベッドがきしんだ。
「いいの?」
「あぁ・・・他のものに俺を探すな・・・。求めるならこのミロ自身に・・・
心が満たされるまで、体が満たされても・・・それでも、だ。」
いつの間にか自分の下にを見下ろしていた。
こぼれ落ちるくせ毛を細い指でからめとって弄ぶ。

「ホントは、キスだけじゃイヤ・・・優しい抱擁だけじゃ、もう我慢出来なくなってきてる・・・。」
先に言われてしまったとも思ったが、も同じ気持ちだったことが嬉しかった。
「それは奇遇だな。」
の頬に添えた手をずらして、髪をよけ首筋を露にした。
これから翻弄される予感には目を細めた。
髪をよけただけで、もう俺の唇を感じているようなその表情・・・
じらしてやりたい
でも乱してやりたい
切ない瞳で俺を欲しがる
焼きつけたい

この目に
肌に
耳に・・・・


は今この場で俺を望むのか?」
「早くどうにかしてほしいくらい・・・」
心は決まった。乱してやることにしよう。
見つめあったかと思うと、次にはもう瞳を閉じてくちづけを求め合った。








強すぎる快感に思わず逃げようとする身体を引き寄せては
何度愛しあったことだろうか?
2人で荒い息をしながら、熱がひくのを待った。
「・・・ミロって・・・すごい・・・。」
こんな言葉にびっくりしつつ、キスをひとつ・・・。
くすぐったそうな、照れくさそうな表情をした。そんなところもまた愛しい。
汗ばむ体にシーツを手繰り寄せて、はじめての腕枕。
「なぁ、?」
「ん?」
「さっきの話だけど、もう1つの女ものの香水もがつけてるのか?」
「そうよ?」
「1度に香水ふたつつけたら、匂いがまじるだろ?」
「まぁ・・・そうだけど・・・」
人差し指を口にあてて、しばらく考えた様子だった。
「でも混じりあうのが一緒みたいですきなの。
それに名前にも意味があるんだよ?」
「ふーん、何て名前?」








「ど・く」
わざと区切って発音された名前に反応した。
何事かを感じた俺をは、照れたように微笑んでみて。

「毒、か?」
「そう、ミロを夢中にして離さない魅力がほしかった・・・。
ミロに私をとらえて離さない魅力があるように、ね。」

「・・・ばか。わざわざそんなもんつけなくても、の中にある毒に
俺はとっくの昔にやられてる。」
「うそ。全然手だしてくれなかったじゃない。」
「・・・・大胆な発言だな。」
「ミロといろんな時間を共有する為なら!」
すぐそこにミロの顔を見ながら、やっと本音をいった。
また少し”ふたりの距離”が縮まった気がして、どちらからともなく抱きしめあった。
















しばらくして、聖域教皇の間にて・・・

「おい。」
鬼のいぬまに緊張を緩めたデスマスクが話しかけてきた。
「なんだ?」
めずらしく仕事にのってきたから手を休めたくはない。
「おめぇ、その髪のにおいさぁ・・・」
「髪?俺の?」
「そうだ、シャンプーかえたのか?」
「何故そんな事を聞く?関係ないだろうが・・・」
「何故バニラの匂いなんだよ?」
さっさと話を終わりにして、作業に集中するつもりだったが、
デスマスクのこの質問に反応してしまった。
「バニラの匂い、するか?」
「めちゃくちゃ、」
「・・・・そうか。」
自分の髪をひと房とって匂いをかいでみた。

たしかにこれは、にねだっってもらったあの香水の匂いだ。
寝るときに、が恋しかったりすると自分も同じようにシーツにシュッとひと吹き。
今ではもうクセだ。

「おいっ、何なんだよ今の”フッ”は?!」
思わぬ癒し効果に漏らした笑いに、デスマスクが噛み付いた。















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