教皇宮からの帰り道。
夕日に照らされる蠍座の黄金聖衣。
彼はスコーピオのミロ。
私の好きな人。
尊敬する人。
憧れの人。

でもトモダチ・・・。
少なくとも彼にとっては。


「執務の帰りか?用事がないんならメシでも食ってけよ。」
軽々と言ってくれます、この人・・・。

吹く風にマントがはためく。
金色のくせのある髪は輝きをまして。
口元には自身が満ちている。
この世に12人しか存在しない黄金聖闘士のひとり
スコーピオのミロ。
なんだかとても誇らしい。

「お邪魔じゃないんなら寄ってくよ。」
ミロを慕う女官に殺されそうと思いながも誘いにのってしまった。
天蠍宮の長い通路をちょっと曲がった所に
プライベートな空間が存在する。

「着替えてくるから、そこら辺に座ってて。」
「あ、ありがとう。」
リビングやキッチンは宮の古めかしさや神聖な雰囲気とは違って
現代的だった。
ソファのわきに無造作に置かれている雑誌や、出しっぱなしのCDケースが
ミロらしい。
手持ち無沙汰なので、付近を嫌味にならない程度に片付ける。
「あ、いいよ。そのまんまにしといて。」
ジーンズに白いインナー。その上にパーカーをひっかけている。
「さぁて。何が食べたい?って言っても俺凝ったモノ作れないけど。」
「じゃ私作るから、ミロはテーブルセットしといてよ。」
「オッケー。」
何だか不思議な感じ。外で見るミロは太陽のような笑顔で私に
接してくれるけど。今のミロはちょっと違う。
大人びた?服のせいかな?うまく言えないけど。
これもまた彼なんだろうな・・・。

冷蔵庫を開けて材料を取り出しテキパキと作業をすすめていく。
思えばこれが自分の料理を食べられる最初なわけで。
(緊張するなぁ・・・)


夕食は、
有り合わせの野菜をオリーブオイルと白こしょうとレモン汁で
あえたサラダにステーキ。
やっぱりありあわせの野菜のスープとスパゲティ。
組み合わせがイマイチだっただろうか。
「うっ・・・うまい!!」
「ホント!?」
の料理うまいよ!ひさびさにうまいもん食った!」
「よかったー!」
ささやかな夕食だったが、ミロの笑顔と楽しい会話で
ひさびさに楽しいと思えるものになった。
夕食の後はリビングに場所を移して、2人だけの飲み会となった。
缶ビールにおつまみ。
ミロと私は床にすわって会話になはを咲かせていた。
バカ話をして・・・
ミロの冗談に腹をかかえて笑い・・・
私の失敗談にミロもまた思いっきり笑い・・・
そんなふうにして、夜が更けていった。

世界が青から星が輝く黒い闇へと移り変わる。
こんな夜更けだというのに、シェードをおろし忘れている窓からは
空の移ろいがよくみえた。
「天蠍宮からの風景が一番綺麗な気がする・・・。」
そういって私はベランダへと出た。
「そう?」
「うん!」
ビールを片手に裸足のままミロがベランダに出てきた。
今までに接近したことのない距離に彼がいるのを感じる。

。聖域はどう?」
「素敵だよ。想像してたようにステキな所で。想像した以上にステキな
人たちがいて。みんな親切で。沙織ちゃんの命令でこんな所に
つれてこられてビックリしたけど。楽しい毎日だよ。」
ミロを見上げると、優しく私を見ながらきいてくれていた。


黄金聖衣を纏った彼は凛々しくて眩しかった。
仲間で飲み会をしている時の彼は明るくて。
いつも見ている笑顔は太陽のよう・・・。


でも今は・・・。
仲間の優しさというよりは、男の人の優しさが見え隠れするようで・・・。
口調がいつもより含みがあるっていうか。
ミロの男っぽさを見ている気がする・・・。
こういう一面もあるのか・・・。

「ミロっていっつも太陽みたいに明るいから、何だか
いつもと違うみたい・・・。」
「そうか?いつもと変わらんと思うが・・・」
その口調はいつもと同じ。
「なんだろ?夜のせいかな?ちがう気がする。」
「ちがう、かもな・・・」
できてしまった沈黙に、視線がからみあう。どういう意味なの?
「俺は・・・」
「ん・・・?」
ミロは私を見つめるだけで何も言わなかった。夜中の静けさだけが
辺りに漂っている。


「俺・・・今日嬉しかったよ。に会えたから。」
「え・・・?」
「・・・好きだ。」


うそ・・・うそ・・・・・!!!
ミロの真剣な眼差しに、胸がぎゅっと押さえつけられるように
苦しくなって。
胸元に握り締めた手を持ってきたものの、何も言葉が出てこない。
・・・」

は俺のこと、どう思ってるの?」

そんなこと・・・。嬉しくて、恥ずかしくって
”好き”って出てこない。
ミロから目を逸らして俯いてしまうと、突然体が何かにぎゅっと
締めつけられる感じがした。
「もし好きなら、こうしていて・・・。逃げないでくれ・・・。」



どうしよう。大好きな人に抱きしめられてる。



暫くしてミロの胸に少し頭をあずけてみると、

ミロもドキドキしてくれてるんだ・・・。
普段は自信ありげなのに、ドキドキしたりするんだ・・・。
「私もミロが好き、だよ。」
夜中の静寂にも負けないくらいの静かな囁きを、ミロは聞き逃さなかった。
抱きしめている腕に力がこもる。


ずっとこうしていてほしい・・・


私を解放したミロは優しく微笑む。
ふいに顔をそらす。
「もう夜明けだな・・・。」
少し白み始めた空がある。
ミロの横顔が夜明けの薄明かりにうつしだされて神々しい。

・・・」
何かを待っているように、その瞳は甘やかに揺らめいて。

しかし、視線をそらして自分の足元を見ていたかと思うと
意を決したかのように、再び私を強くみつめた。


ミロは自分の唇に右手の人差し指をあてる。
チュッと音をたてて離すと、目の高さで指に光をともした。



あ・・・蠍座の真紅の輝き・・・・!


指先から紅い光の粒が次々に零れ落ちる。
そして、光を宿したままの指が唇に軽く押し当てられた。


かすかな熱と光の粒は私の中へと吸い込まれていった。

「ホントは・・・」
ぼーっとしたまま何も言い出さない私を見てくすりと笑う。
「今度会う時は、こんなんじゃ帰さないならな。」

思わず目を見開いた。
ミロは甘くからかうような表情をしていた。
「送ってくよ。」

ベランダの淵におかれっぱなしになっていた缶ビールをもって
一人スタスタと戻っていってしまう。


消えたはずの紅い輝きが
ミロ恋しさに心の奥底で再び光を放つ・・・


「ミロっ!!」

足を止め振り向いた彼に、おもむろに人差し指を突きつける。
この指から紅い輝きがはなたれることはないけれど・・・!!
「スカーレット・ニードル!!!」
一撃をはなつフリをする。

驚いて私を見てるミロ。

「じゃぁ・・・今こんなふうに別れないで・・・!!
ミロが好きだよ・・・だから・・・」
最後は声が小さくなってしまったけれど。

気持ちは十分に伝わったに違いない。
だってミロはとびっきりの笑顔でこっちに走ってきたのだから。
そして私を抱きしめると、覆い被さるようにキスをした。


「ずっとこうしたかった・・・!」
何度も何度も唇を重ねる。思いをのせて。

・・・愛してる・・・。」
キスの合間にもれるささやき・・・
「みろ・・・私も・・・ん・・・あいして」
最後まで伝えることを許されず奪われるキス・・・


あふれ出した思いを表すかのように深いものへと変化していく・・・
・・・・」
漏れる吐息も、あなたに捧げたばかりの心も・・・
もっと奪ってほしい・・・
「みろ・・・好き・・・」
ミロの手が頭を押さえ込む・・・


きっときっと、これからもキスをする。何度でも・・・。



その度にミロ・・・
私の中に光が溢れる。



あなたのくれた真紅の輝きが・・・








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