+++明日も明後日もずっと・・・一緒にいよう・・・+++




「このバカっ!!」
ボコッ!!
「アイオリアの意気地なしめっ!!」
ばしっ!!
「レオの誇りを忘れたのかっ!!ええいっ!!」
どすっ!!
「ぐはあぁぁぁっ・・・・・!!」

アイオリアは自分で自分を殴っていた。
不甲斐ない自分を、に恥をかかせた男らしくない自分を・・・。








数時間前とアイオリアは獅子宮でデートをしていた。
出会いは数ヶ月も前なのに、奥手のアイオリアのせいでキスはおろか手もつないでいない
そんな子供のようなお付き合い。
が、『手をつなぎたい』とそういう素振りをしてみせる事にも
気づいていたし、アイオリア自身も手をつないでみたかった。
本当のところはそれ以上だってしてみたい、大好きな彼女だから・・・。

そんなところに自室でのデート。
夏の日差しは爽やかな風とともに開け放たれた窓から遠慮なく・・・・
グラスの中の氷がカランと音をたてる
会話もはずみ、自分の趣味の話になった事が良かったのか女性に対する緊張感(に対して
だって未だに緊張してしまう)もほぐれて
とにかくいい雰囲気だった、なのに、なのに俺は・・・・。

会話が途切れる。鈍感な俺は『今日は珍しく緊張しないでいつもの俺でいられた』
『いいぞアイオリア!この調子でもっとを楽しませるのだ!!』などと・・・
の本当の気持ちも知りもせず、知ろうともせず・・・今日の自分の出来のよさばかりに
気をとられていた。
そんな時ソファにふたり並んで座っていたが少し距離を詰めた。
俺はそれにすら気がついていなかった(今考えれば・・・はぁ・・・)
「ねぇ・・・リア?」
そういって俺を見上げるを不思議に思った。
そして俺は・・・・冗談っぽく抱きついてきたを、本当に、本当に思わず振り払ってしまったのだ!!
自分でもよくわからない。
抱きしめたり、キスしたり、手をつないだりしたいと俺は、そう思ってたのに・・・。

その場の空気が一瞬にして気まずいものになった。
謝る事すら、言い訳する事すら忘れてしまって。
涙をためた君の瞳をみて、どうしようもなくなった。
「リアって・・・私にさわられるの・・・・イヤなの?」
「い、いや、違うんだ!」
ただ慌てるだけの俺を残して、はバッグを手にとって背中をむけて出て行った。
パタンとドアのしまる音がした。
が俺に対して心を閉ざした音だと思った。
部屋に差す日がオレンジ色になるまで俺はバカみたいに、ソファを動けず
ただ両手を握り締めたまま後悔していた。










俺はひたすら自分を殴り続ける。
「はぁはぁ・・・まだまだだ・・・・の心の痛みを思えば・・・はぁはぁ・・・・
こんなものでは足りんのだぁーーーーっ!!」
サンドバッグを殴るように両頬を拳で叩き続けた。
腕が折れるまで!!意識がなくなるまで!!

「おい・・・!アイオリア!!何してるんだよっ!!やめろって!!」
「ぐはぁっ!!」
たまたま飲みに誘いに来たミロが驚いてアイオリアの腕を掴んだ。
「何してんだよっ!!」
「っく・・・止めてくれるな、・・・ミロよ・・・はぁはぁ・・・・。」
「よろけた体勢を立て直して、拳を振り上げたが、一度勢いを失い、腹にキマる瞬間に
またしてもミロに腕をつかまれた。
「わかんないな・・・言えよ・・・・?」
俺は床によろよろと座り込むと、ぼそぼそと成り行きを話した。
時々唇についた血を親指でぬぐいながら、今頃はどうしているかと考えながら・・・。

ひととおり話しおえると、冷蔵庫からとったミネラルウォーターをミロが差し出した。
「要するにアイオリアお前は、自身がないのか?」
「ない・・・。俺は自分の身体を鍛える事しか能がない、脳みそまで筋肉とかいわれるような
バカだ・・・。女性とつきあったことなんか、ましてや・・・・キスだとか・・・・
手をつないだ事だってないのだから・・・・。」
「だから、抱きつかれて嬉しいのに、どうしていいのか分からないから、その時は
抱きつかれる心の準備が出来てなかったから思わずを振り払ったと?」
「あぁそうだ・・・・!俺はいつだって、に対してどうしていいのかわからん!!
が望んでいるような男なんかじゃないのだっ!!」

アイオリアが純粋なのは知っていた。
だから、がっくりと頭を垂れてどことなく小さくなったアイオリアを微笑ましく感じていた。
「ばーか・・・!!」
「!」
「やっぱお前って脳ミソ筋肉かもしんない。」
わざと呆れきったように言ってみせた。
「なっ!」
「いいか、よく聞けよ?あの子が、がお前に望んでいるのはな、」
「あぁ・・・・」
「ただお前がお前らしく自分の前でもいてくれることだけだ、そう思うぞ?」
「俺らしく?」
「そう、別に『こう抱きしめてほしい!』とか『こういうシュチュエーションで・・・!』とか
お前にそんな事期待しちゃいなんんだ。」
「・・・・」
「アイオリア?お前がもしを抱きしめたとする。にどんな反応してほしい?」
「それは・・・・別に・・・・。ただ『嬉しい』って思ってくたら・・・それで満足だ・・・。」
「きっとだって同じさ。」
「?!」
「心が通じあいたあから会話をして見詰め合って・・・・キスしたり、抱きしめあったり・・・
するんだろ?別にヘタだっていいんだ。初めてだっていいんだ。
『自分も今したいって思ってた』素直にそれだけ。嬉しいっておもってりゃいい。
そして余裕があれば、腕に力を込めて抱き返してやればいい。離れた後微笑み返して
やればいい。」

この夕日が沈むまでまだ余裕があるだろうか?
「なぁに、『ああしなきゃ、こうしなきゃ』なんて考えなくたって、自然に反応しちゃうもんだ。
理屈ぬき。」

自分を責めてる暇があったら、いますぐの所に行きたい。
「どうしていいのかわかんない?の望むような男じゃない?本気だからこそどうしていいのか
わかんないんだ。それにが自分の望むような男だから、お前を選んだんだろうが。」

俺はタオルで乱暴に顔をふいて、立ち上がった。
「行けよ!」
「ミロ・・・。」
「きっともしょげてる。」
「あぁ・・・・!」
アイオリアは走り出していた。








本当はこの夕日を見る頃まで、いいや、夜だってリアがいいって言えば一緒にいたかった。
「私が悪かったの・・・?」
拒絶されたショックから立ち直れず、自室のベッドで窓の外の夕焼けをのぞいた。
涙を拭っても、夕日はふにゃふにゃにゆがんでいった。
「もうおわり、かもね・・・・。」
リアが自分を嫌いで振り払ったのではない事は頭で理解していても、さみしさはどうしようもなかった。


バタン!!
突然玄関のドアの開く音がして、ビクリとして顔を上げる。
誰かは分からないが、人の部屋を何の遠慮もなしに歩き回る音がした。
!アイオリアだ!」
「!」
急いでベッドから身体をおこす。
リア?どうして・・・・?
!もしその・・・・とにかくいるなら出てきてくれないか?」
きっと先程の事に決まっている。
それが嬉しいような、もう何も聞きたくないような、胸の中は複雑だった。
ごそごそと這い出して、ティッシュで涙をふく。











もう一度声をかけてみようかと、息を吸い込んだ所で後方のドアがカタント開く音がした。
・・・・」
アイオリアはやはり、と心で呟く。
少し腫れた瞼。
自分がしたことは、考えていたこととは反対で・・・。
をどうにか喜ばせたいとそれだけ考えてたはずなのに、自分が一番最初にしたことは
を泣かせることだったのだ。
「!」
反対にの憂鬱さは一気に吹き飛ぶようだった。
アイオリアの顔には固まった血の跡が何箇所もあったのだ。
、聞い」
「どうしたの、リア!誰に・・・・ひどい・・・・!」
泣き顔にアイオリアをこんな目にあわせた人物への怒りを滲ませる。
つかつか早足で台所へ行くと、見えない角度から水が勢いよく流れる音が届いた。
「いや、これは・・・!」
「しみたらゴメンね?」
冷えたタオルで、ゴシゴシ汚れをこする。

!」
薬箱をひっぱりだしてきそうな勢いを、片手で止めた。
「その・・・これは、・・・これは俺が自分でしたことなのだ。」
の瞳がわずかに大きく開かれる。
「なんで・・・・?」

びくつくな!深呼吸して、思っていることを言わなくては!
順番どおりでなくていいんだ!全部、ここでおわりたくないから全部言ってしまえ!!
「自分が、情けなくてな・・・。俺は本当は嬉しかったんだ、以上に。でも俺は・・・・」

言いたい事はいっぱいあるのに、言葉がない。あせるな!!

「手を繋いだ事も、キスしたことも・・・本当は君以上にそういう欲望があるのに、考えてしまうんだ。
『どういうふうに』とか『ヘタだと思われやしないか』とか、脳ミソまで筋肉の俺は
抱きしめられたら、嬉しいのに・・・・『どうしよう』と思ってしまう。どうしようもない男で・・・」
「リア・・・・」
「すまん!」
1%・・・・
言えた事は思っていることの1%・・・・。

それでもには十分伝わっていた。
懸命に自分への思いを語ろうと、手をせわしなく動かしながら、目を天井にむけたり
最後は勢いよく頭をさげた。
「私のこと、キライじゃないんだ・・・!」
「そんな事!・・・君が俺を想ってくれる以上にを好きだ!いや、は俺が
好きじゃないか・・・・」
「何言って・・・!好き!リアが好き!」
「俺だって・・・!」
今日の誤解がとけていく瞬間。
あかく染まっていくふたりの顔は夕日のせいというには時間が遅い。
もう、涙のかけらも消えてしまった。


?」
「うん。」
「時間がもう遅いけど・・・・これから、・・・今日のやり直しをしないか・・・?」
「ホント・・・!」
やっと言えたセリフにはぱぁっと顔を輝かせた。
それが嬉しくて俺は、さらに続けてみる。
「そうだ・・・!夕食をふたりで食べて、その後はテレビでも見ないか!」
「うん!あっ、私ね?」
「?」
パタパタと小走りにテレビに近づくと、は俺を振り返る。
「この間・・・ビデオかりてきたの。ふたりで・・・見ない?夕食の後に。」
「・・・あぁ・・・!」
距離が縮まった、きっと同じように感じてる。
火の元を確認すると、リビングの電気を消して鍵を閉めた。
教皇の間から、長い長い獅子宮までの距離を下っていく。
?」
「なに、リア?」
「ビデオを見たらちゃんと送っていくから!」
「ふふっ・・・ありがとう!」
ただひたすら階段を下る二人の会話が続く。
着地する度に返事を返すの声がゆれた。
?」
「リア?」
「今日も会ったけど・・・明日も会ってくれるか?」
「知ってる。リアの誕生日でしょ・・・?」
「知ってたのか?!」
「もちろん。」
振り返ったアイオリアには笑った。
当たり前でしょ?と・・・。

その微笑に、アイオリアは自然と手をだした。
も少し照れて手を伸ばす。









明日は朝から会わないか?
ちょっと早起きして、君を迎えに行くから・・・・
バッグにジュースとタオルを持って
朝焼けの海を見に行こう・・・・!

波打ち際裸足で散歩して
今日がはじまる時をと感じたい。

きっと明日も手を差し出すから・・・・
そしたら今みたいに笑って、手を繋いでほしい。

ゆっくりだけど
ふたりの絆
つくりたい・・・・・









聖域の空は紫からもうすぐ青に、徐々に暗くなっていくだろう。
小さな星がひとつ、輝き始めた。
















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あとがき


うーん。ここ・・・こんなアイオリア夢でよかったのか、後悔といいますか疑問はありますが
出品させていただきます。
私の中では、積極的なイメージがないので初々しい感じで・・・(どこがだ?)
最後に明日が誕生日だと、会話をいれてみました。
なので誕生日前夜のお話になっております。

きっと明日も晴れるはず。朝焼けの夏の海をヒロインちゃんとふたりで見に行く事でしょう。

この作品にてアイオリアの「獅子祭れ!」作品にさせていただきたいと思います。
アイオリアお誕生日おめでとう!!

最後に天架さま、主催お疲れさまです。

FEVER