ここ数週間、ミロと一緒に過ごす時間の長さだとか、交わすキスの深さがある予感を招いていた。
これはきっと誰もが通り過ぎる出来事の予感。
そう、セセセセセ・・・・セッ・・・・言えないっ。

ミロとの『はじめて』は、私の場合男の人とのはじめてにあたる。
キスも抱擁も・・・アレも。

とにかくソレがもうすぐなんだろうと思って、ミロに会う前は『何やってんだか・・・』なんて呟きながら
必ずボディーケアをしていた。
友達から男性経験の話などを聞かされていたのが災いしているのか、はじめてのくせに冷静にこんな事が出来る自分がいた。


ミロと過ごす時間は楽しくて、彼を見た瞬間に『今日かしら?』なんて不安はキレイサッパリ忘れてたりする。
だけど別れた後で『想像していたような事』は何も起こらなかったと、朝の警戒心を思い出し再び胸を撫で下ろすのだが・・・。

この数週間体を隅々まで洗うという努力は全くの無駄におわっていたのだった。




そして今日も夜11時
天蠍宮、ミロの部屋

ビールとポテトチップと缶ジュース。
当てもなく次々かえられるテレビ番組は今日1日の出来事だとか、そんなものが多くなってきていた。
「そろそろ帰ろっかな・・・」
「まだいいだろ・・・?」
「でも12時になっちゃうし・・・」
「送ってくから・・・・」
「んー・・・」
無意識に人差し指を唇にあてた。一緒にいたいのはやまやまだがケジメがないのはよろしくない。
?」

「やっぱり帰る。」
「なんで?いつももうちょっといてくれるだろ?」
「また帰り遅くなるもん。」
「そんな事言うと・・・・すねるぞ・・・。」
そう言ってミロは私にしなだれかかってきた。頭を私の肩にあずけたままテレビを見ている。
肩、腕、肘とクセのある髪が肌をくすぐる。さらに手の甲に新たな感覚が追加された。
よく考えなくてもそれはミロの手。男の人らしい体温高めの、大きな手だった。

軽いスキンシップが、ミロから離れ難くすることをこの人は知っている、そう思った。
私の体にミロの体の一部でも触れようものなら、そこから毒が侵食してくる。
体を麻痺させ最後に心に届くのだ。『帰らなきゃ』という意思を忘れさせてしまう。
今日はとどめをさされる前に家に戻ろう。
「ミロ?」
「んー・・・?」
返事がまったりしている。ミロは私がまだ帰らないと思っているらしい。
「帰る。」
肩をずらすと、ミロの頭がズルッと滑った。立ち上がりかけた私を光速で止めに入る。
「帰るなよ!」
「なんで?!」
「そ、それは・・・・!さみしいからだ!」
ラブラブな恋人が再三にわたって別れを引き止めるには、真っ当すぎる気がする。
『さみしい』と言ってもらえるのは心が動くが、このシュチュエーションではもっと他の理由があるはず。
『いかないで』と子犬のような目をしたり、『さみしいな・・・』なんて大人のさみしさをきどってみせる
けど、その仮面の下には毒蠍狼クンがチャンスをうかがってるのかも・・・。


まさか、ね・・・。

「そんなにさみしいの?」
首を縦にブンブンと振って見せた。
「じゃ・・・ミロ。これを私だと思って?」
そう言って、私が今まで座っていた座布団からどいて、それをミロに渡そうとした時だった。
「わっ!」「はいっ!」
二人の声が重なり、私の行動を阻止しようとして伸びたミロの腕が宙でかたまった。
その手は何?と思うのと、座布団を上に持ち上げた勢いで何かが弾き飛ばされた音がしたのが、同時であった。

シュルシュルシュルシュル・・・・・!!

恐らくは座布団の下に隠されていただろう物が、私の突発的行動により姿を暴かれ、ミロの膝にぶつかって
動きを止めた。
偶然にもミロの足元で止まったのがかなしい。
「「ぁっ・・・・!」」
ふたりの間に妙な沈黙が・・・
1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・











私はただひたすら正方形の包みに浮き上がるまぁーるい円を凝視していた。
ミロがどこを見ているのかはわからない。
「あ・・・・何か変なモンがある・・・・。」
うわあぁぁぁーーーーっ!!!わたしったら、何実況中継してんのよおっ!!!
バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ


ばかあぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!私のばかっ!!


はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ・・・・・


始まるモンも始まっていないというのに、心は・・・いや肉体も疲れきってしまった。
もうだめだ。
折角ミロが『私としたい』って思ってくれてたのに!!
よりにもよって、どーしてどーして座布団なんか持ち上げたのよっ!!
悪気はなかったとはいえミロの段取りをメチャクチャにしてしまった私なんてっ!!
だいたい『だんどり』とかって、初めてなのに何そんなこと気にしてるのっ・・・・!!

半分涙目になりながら、ゆっくりと頭をもちあげ視線を正面のミロへとうつした。
怒っているのかな、と覚悟を決めて向き合ってみれば
「ふぅ・・・・!」
天井に目を向けてひとつ大きく呼吸するミロ。
私に対して苛立っている風でもないし、そういう種類の溜息でもなかった。
むしろ、バレてしまったことで苦心から解放されたような、いつものミロにもどった深呼吸。

どんなシュチュエーションだろうと、私はきっとこの人には抗えない。
「今夜は・・・・するよ・・・?」
好きな人と抱き合った経験のない私ですら、ミロの甘く揺らめく瞳に最高の思い出を確信してしまう。

「するの・・・?」
「そう、する・・・。」
にじりよって2人の距離を自然につめてくる。
でもドキドキしながらもミロの甘い毒におかされてみようなかって思ったりしてる。
「いや・・・・・?」
そんな瞳で見つめられたら、私は苦しくなるばかりだよ。
逆に今の気持ちに素直になれなくなる。
「いやじゃないけど・・・・」
「けど?」


この困ってしまうような照れてしまうような・・・・素直な気持ち、どう言えばいいのか
頭の中で組み立てられた言葉たちは、通り道を失ったかのように胸の奥へと引き返していく。
ただ『したい』それだけなのに・・・






「じゃ、の体にきいてみてもいい?」
「・・・・・!」
「いやじゃないけど・・・けど、どうなのか。」





・・・・」
「ミロ・・・」
「愛してる」



「こわくないから・・・・」
「うん・・・」



「いたくしないから・・・」
「ふふっ・・・・」


私につづいてミロがクスリと笑いを漏らす。
額にちゅっと、瞼にそろりと・・・
そして唇に。
いつもはここでおわってたけど・・・・ミロの頭が下へとずれて
キスをする艶かしい音が首筋に響いた。

いつもは1日をおわりにするためのキスだった。
今日は・・・はじまるためのキス。





少しミロにしがみついた。
背中へ回された彼の手が私をささえている。
この先は・・・
閉じた瞳に、ミロ・・・あなたを浮かべてみよう・・・











体中に散らされたあなたのキスが・・・
私を解放するね・・・

キスをした思い出より
こうして抱き合うと
ミロをもっと好きになるね・・・

初めて見る、抱き合う時の表情
大好き・・・






大好き・・・・











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