うさぎになったとテレビなど見てくつろぐこと数時間。
さらに不便な事が起こった。
トイレだ。
いきなり俺の膝から飛び降りたかと思うと、洗面所方面へかけて行った。
ぴょんこらぴょんこら・・・へっぴり腰な小さい後姿がかわいらしい。
しかし行って数秒、リビングまで戻ってきて俺の服を口でひっぱって”ついてこい”という。

そこがトイレだった。
今の姿では便器には座れない。
万が一水の中にでも落ちたら大変だ。さすがに助けたくないかもしれん。
今日気づいてよかったというものだ。
そこで暫くの間はプラスチックケースをうさぎトイレとすることにした。
きっとこれからの数日間はこんな事のくりかえしだろう。

「ふう、すっきりしたか?」
コクコク。
「よし。少しネットで調べてみるか?」
コクコク。

検索してうさぎの生態を調べてみる。
!良い事がわかったぞ!」
パソコン用のデスクの一角に置かれたタオルの上では首をかしげた。
「やはりそうか、うさぎはにんじんが大好物だそうだ。」
・・・・・・・。
「よかったじゃないか、人間の食いもんが食える事が判明したのだぞ!」
・・・・・・・コク。
「む?これはいかん!うさぎの歯は死ぬまでのび続けると書いてある。
なになに・・・?・・・・『歯を適切な長さに保つには、牧草をすり潰すことで奥歯が削られ、
木を齧ることで前歯を削り・・・飼い主さんはうさぎに柔らかいものを与えてはいけません。』
・・・ということはの食事は今日から牧草と木!!」
フルフルフルフルフルフルフルフル!!
「これは俺もイヤだ・・・固いもの食えばいいんだろ?
・・・そうだ、煎餅でいいんじゃないのか?!」
・・・・コクコク。

こうして俺たちはうさぎという生物のことを理解し
必要と思われるところは今後の生活に取り入れることにした。
まぁ、もっともがいつまでうさぎでいるのかわからないから、適当な部分もあるけどな。

夕方になって食事をとる。
俺は普通に椅子に座って、はテーブルの上で。
スープとパスタとサラダ。
俺の用意できるのなんてこんなものだ。
にも同じものを用意した。
一応サラダにはにんじんスティックを沢山いれてみた。
あと食後に煎餅も。

言葉を話せないば頷くことしか出来ないから、はたから見ると俺が楽しそうに独り言をいってるみたいだろう。

そんな感じで食事時を過ごし、まったりと寝るまでのひとときをリビングでくつろいだ。
いつでも水が飲めるように、床にはボウルに水をおいておく。

不都合な事を上手に解決して、今はに必要な物は70%そろったのだろうか?
足をのばして床にくつろいでみたり。
ダッシュしてジャンプしてみたり。

”ちょっとだけ今のの目線を覗いてみたい”
人間以外の生物の気分を自分も味わってみたい、うさぎライフを早くも満喫し始めたの様子を
見ていてそんな気持ちになった。

ここまでは気楽だった。
『いつかもとの姿に戻るだろう』とか『そんなに長くは続かないさ』という何の根拠もない気持ち。

サプライズは真夜中に起こった。







寝苦しさに意識が徐々に眠りの世界から引き戻される。
「んがぁっ・・・・・」
心地よかったはずの寝相が・・・いまいち決まらなくなった。
頭の下に置いた手を思いっきり伸ばして、大の字になる。
びとんっ!
半ば振り下ろすように投げ出した左腕が何かにぶつかった、ベッドのマットに振り下ろしたにしては
何だか鈍い音だった、寝ている頭でそんなコトを考える。
「ゃん・・・・」

しかし寝ぼけた頭はどこか正しかった。
マットにしては腕に凹凸感が伝わってくる。
何にぶつかったのか?掌を下向きにして左腕にさわるモノの正体を確かめた。

むにゅむにゅ・・・
「ゃぁ・・・・」
なんだコレ?押すと音がでるのか・・・?

さらに
むにゅり、むにゅり・・・
「・・・ぁ・・・・」
なんか・・・懐かしい感触・・・

わしわしわしわし・・・
「ゃぁ・・・・だぁ・・・・」
掌で妙に柔らかい物体をこねくりまわしていると、掌の中心に何か突起らしきものがあたって
くすぐったかった。
ちょっと手をずらして親指と人差し指で突起をつまみあげた。

「ん・・・・なん・・・・」
こういう行動ってすりこまれてるのか?と脳と下半身がぴくりと反応した。
つまみあげたもの、感触におおいに覚えがある。

(なぁんだ・・・・の乳首じゃん・・・)
くりくりくりくり・・・
「みぃ・・・ろぉ・・・・」

(寝ながらでも、手が動き記憶してるんだ・・・ふぁ・・・・)
ぴんぴん・・・・
「ゃ・・・・」

も反応しちゃって・・・・)
むにゅむにゅ・・・

むにゅむにゅ・・・・・・?
眉間にシワがよった。

むにゅむにゅ?!
ありえない感触に一瞬にして眠気がさり、かっと目を見開く。
「はぁっ?!! うっそ!!」
隣を見ればそこにはいるはずのない人がスヤスヤと寝息をたてている、裸で。
そう、である。

ゆっくりと手を持ち上げ、すっかりボサボサになった髪をかきあげた。
がたった1日にして、人間に戻ってしまった驚きに髪をぎゅっと握った。

何でだよ?
何で人間に戻ってんだよ?
コロコロ変身する異常さに、元通りになったに対する喜びより驚きが先にたっていて。
「あ・・・あ!!!」
裸でベッドに横たわる体を揺さぶった。
!!おい、起きろってば!!」
「ん・・・・・」
!起きろよっ!!元に戻って・・・!」
揺り起こそうとこころみた手はここで止まってしまった。
「・・・おい。・・・何なんだよ・・・!」
せっかく元に戻ったの体は、何と再び変身を始めてしまった。
すべすべの腕にフワフワの毛が生え始める。骨格はきしみながら、より小さく・・・。
「う・・・・」
「苦しいのか?!」
そうに違いない。骨のきしむ音がするのだから。見ている俺の額に汗が滲んでくる。
時々ビクンと痙攣するように身体がはねた。
それでもどうしてやる事も出来ず、変身が終了するのを待った。
そしてすっかり覚醒したは、少し毛づくろいをすると下から俺を見上げて首をかしげた。
「・・・・・」
夜中にベッドに座って何も言わない俺を、『なーに?』という瞳で見上げている
変身の苦しさは覚えてないようだ。おまけに人間に戻ってた事にも気づいていないっぽい。

「・・・・・・・」
ぴょこっ・・・・。細くて小さな前足を俺の膝にかける。
足をのっけられても、まるで重さがない事が、リアルだった。
「あ・・・何でもない。・・・起こしてしまった。」
フルフル。
「どこも苦しくないか・・・?」
????
きっと『何の事?』って思ってるんだろう。
俺はの前足を手で取って、膝からはずした。
フトンに入って身を横たえて落ち着くと、を安心させるように背中を撫でる。
「さ・・・もうひと眠りだ。・・・」
そんな俺の行動を不思議に感じているのだろうけど、枕の脇にまるく形作ったバスタオルの
ベッドにすっぽりおさまって目を閉じた。
時々ハナがヒクヒク動いている。


『さっきはどうして人間に戻れたのだろう?どうしてだ?どうして・・・』
変身の鍵をつかもうとした。
ヒントがありそうでない、うさぎのの身体を見つめた。
でも、を心配する気持ちも、変身の鍵を考えることも眠気というモヤにかきけされた。
知らないうちに朝を迎えていた。




そして再び自分の横で目にしたものは、人間の姿をしただった。
身を起こして、皺のよったシーツに胡坐をかく。

また人間に戻ってる
このまま人間の姿でおちつくのかな?
いや、それはわからない・・・・
そもそも何で変身するんだ?

朝っぱらから俺の頭は複雑で・・・・

ポリポリ頭をかく音が部屋に響いた。













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