「アイアコス・・・あのね?」
聖域での会議が終わって帰り支度をしていると、背後から細い声がした。
振り返れば、ドアに隠れるようにして俺を手招きする女性がいた。
だ。

表情の緩んだ俺の横をラダマンティスとミーノスが通り過ぎていく。
ミーノスは『先に帰ってますよ』と言って、視線のあったにも『また今度』と優しく微笑んだ。
やつらが完全にこの場を去った事を確認する。
「何、どうかした?」
「お願いがあるんだけど・・・・」
大好きなが瞳をウルウルさせながら、俺に頼みごとをしてきた。





+++ ガルーダフラップ!! +++





俺はの頼みを、よく聞きもしないでひきうけた。
のが失敗だったのか、納得がいかない。

俺はこんな事するつもりで、の部屋にきたんじゃないんだよ!



「はぁはぁ・・・・さぁ、次はどれだ?」
「アイアコス・・・大丈夫?息があがってるけど・・・。」
「心配するな。これしきの事・・・遠慮するな。」
とか言いつつ、足がフルフルしてる。
最近ランニングとかさぼってたし・・・・じゃねーんだよっ。


「じゃ次は・・・このタンスを・・・そうね・・・」
そう言っては部屋を見回すと、壁際まで行ってフローリングに×印をつけた。
「ここにお願い。」
「よし、離れていろ」
がタンスの落下予測地点から離れたのを確認すると、アイアコスは屈んでタンスの底辺に手をかけた。
「ガルーダフラーーーーーップ!!」
手を離れたタンスはクルクル回転しながら空中を移動する。

「3・2・・・」
どっすーーーーーーんっ!!

「・・・・・・」
「カウントとあってなかったね。」
「・・・・・気にするな。」
「タンスが床にめり込んでるよ・・・」
「・・・・回転をかけ過ぎたか。」
「次はちゃんとやってね?」
「わかった・・・。」

「さて、次はどれだ?」
「えっと、テーブルお願いしまーす・・・。」
「よしっ、まかせろ!」

がアイアコスに頼んだのは、部屋の模様替えの手伝いだった。
数時間前、思いつめた瞳で「お願い、部屋に手強いのがウヨウヨしてるの・・・」なんて
言われた時には、「カッコイイ俺様を見せられる!!」と思ったのに・・・。
自分の技がこんな形で悪用、いや利用されるなんて・・・背中に哀愁がただよってしまう。
しかし、『手強いのがウヨウヨ』これに引っかかって、冥衣など纏ってこなくて本当によかったともおもった。

「おおっ、だいぶはかどったな。」
「うん、あと少しだね。」
「さっさと片付けてしまおう!」

が床に印をつけ、アイアコスが重い家具を持ち上げ投げ飛ばす。
技の勢いというよりは、やけくそで投げ飛ばす。





こんな事を繰り返すこと2時間・・・。



「はぁーーー・・・・やっとおわった・・・!!」
「ご苦労様したっ!はい、どうぞ!」
模様替えがおわって、ふたりはソファにすわってひと休みした。

ストローのささったアイスコーヒーを飲みながら、この後の展開を考える。
今日はカッコよく、の手伝いが出来たと思う。
これでポイントをかせげたと思うし、聖闘士どもよりリードしたはずだ。

「ごめんね、こんな事頼んじゃってさ。」
「かまわん。」
「アイアコスのおかげで、早くおわった。感謝、感謝!!」
は両手を胸の前であわせて、『ありがとう』といった。
にっこり微笑まれて、ちょっと満たされた。

「もう体力回復した?」
「おう。」
いつまでも疲れてなんかられない。
手伝ったかわりと言っては何だが、今日中に少しは恋愛対象として見てくれるように
手をうっておかなければいけない。

「ねぇ、アイアコス?」
「ん?」
「最後にもうひとつなげてほしいものがあるんだけど・・・」
「あ、まだあった?どれ?」
背もたれから身体を起こして部屋を見回した。
もう頼まれた物は移動したはずだったけれど。

「あのね・・・私をね・・・?」
「は?」
「わたしをっ!!」
をっ?ダメだよ、を投げられるわけないだろ。だいたいどこに投げろって・・・・」

「ここに・・・」
そういって立ち上がると、は俺の前まで来て目線が同じになるようにしゃがんだ。
人差し指で俺の膝に×印をつけた。
「私の落下地点、アイアコスの腕の中。・・・・予測じゃなくて願望だけど。」
頬を赤らめては恥ずかしそうに俺を見た。






やられた。




に先をこされた気分と、今日はもっとと先に突っ走りたい気持ちと・・・・
突然欲張りになってる自分がいて。
「アイアコス・・・?」
なかなか返事をしない俺を不安そうに見つめる
「おいで。」
軽く手を引くと、は自分でつけた×印の上に遠慮がちに座った。
両手で抱きしめると、身体が完全にあずけられた形になった。

って、俺のこと好きだった?」
「うん・・・でも。」
「言って?」
「アイアコスは冥界にいるから・・・なかなか会えないし、会議終わればすぐ帰っちゃうし。」
「それで?」
「仲良くはしてくれるけど、アイアコスの本当の気持ちが知りたくて・・・」
俺を映す瞳が『おしえてほしい』と揺れていた。

「好きだ。」
めちゃくちゃにしたいくらいに。
「よかった・・・」



欲しくてたまらなかった女が自分のモノのなった満足感と、まだまだ満たされない征服感。
これから始まるというのに、今日の全てを手にしたいと思ってしまう。
きりがない、けどそれでいい。


?」
「ん・・・・?」
「2人の落下地点・・・・俺も×印つけたい。」
「どこ?」
「隣の部屋、ベッドの上・・・」







「この落下地点は予約?それとも・・・・」
なんとなく答えはわかるけど、・・・君の鼓動が胸に響いてるから。


は『そんな事聞くまでもない』というような表情をして、アイアコスの黒髪に指をうずめる。
どちらからともなく近づいてキス交わした。
アイアコスキスをしながらを抱え直すと、ソファから立ち上がった。




ふたりの落下地点まであと少し・・・・・・・












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