っ!!」
ポツリポツリと雨が降り出していた。
別に濡れるのはかまわないのだが、何のクセだろう、つい走り出してしまう。
目的なく街をぶらついたその帰り道、聖域近くまで戻ったとき
間違うはずのない後姿に、いつもの調子で声をかけた。
!降ってき、」
後ろからの肩に手をかけ、覗き込んだその表情に不釣合いな俺の明るさ・・・。

「ミロ・・・?」
「どうしたんだよ・・・・」
とは聞かなくても、本当は見当がつくんだ。

泣き出しだのは空だけじゃないな・・・。
「傘わすれてきた・・・」
「俺もだ。」
「濡れて帰る?」
「そうしよう。」
無理に笑うなよ。

さっきより強くなった雨足。
「たまにはこういうのも、いいよね?」
「あぁ。」
濡れた顔で微笑んでみせても、それは涙だってわかってる。


「ねぇ?ミロ・・・・」
アスファルトだった道はいつの間にか舗装のない小石の転がる道へとかわっていた。
「なに?」
靴先ではじかれた石が乾いた音をたてて、弾け飛んでいく。
「私、ミロにいつもこんなトコロ見られてるよね?」
「そうか?」
「そうだよ・・・」

そうなんだ。
あいつの事で悩んでいるを俺は良く知っている。
そんなを見るのが色んな意味で辛くて、・・・
雨のせいで地面から上ってくる湿り始めた土の匂いだとか、わざと周りの風景に目をやって・・・。
何故だかあわせにくい視線をそんな所に彷徨わせることになる。

あいつを想う君を見たくない。
あいつを想う君を心の中に入れたくない。
でも・・・見つめてしまう。迎え入れてしまう。
こんな勝手な気持ちを何と呼ぶのだろうか・・・。



「そして、理由もきかないで・・・そっとしておいてくれる・・・。」
そう言って天を仰ぐ

のすべてが涙のワケを語ってる。
それに・・・
偶然街で見かけたアイツも、どっか変だったから。



別れたんだよな・・・?






「ねぇ、ミロ!」
「ん?」
「またお茶飲んでっていいかな・・・?」
だから無理に笑うなって・・・。
「よし。そうと決まれば急いで天蠍宮に帰るぞ!」
「うん。」

さっきより速いペースででこぼこ道を歩いていく。
次第に大きな岩が増えてきて、ただでさえ雨ですべりそうな段差を大きな一歩で踏み越える。
ちょっとした高低差を乗り越える度にバランスを崩す体に何度も手が反応した。

は俺に手をかしてほしいとは言わなかったし。
でも俺は本当は、
「受け止めるから・・・」

俺の前を歩く
を後ろから見守る俺
聖域への道を進むこの状況を、俺たちの関係に重ねてみる。

がもし足を滑らせたら、俺は君に手を伸ばそう。
それはこの岩場もそうだし、人生におけるちょっとした試練ででも。



前髪から滴り落ちる雨の雫のように、ぽとっとの背中に本音を漏らした。
「なんか言った?」
ひたすら前だけを見て歩いていたが振り返る。

声に反応しただけなのに、
それは新鮮だった。

恋心を抱いた”俺”という存在に初めて気がついて、は振り返ったのかと。

「いや。」
「そう・・・」

再び歩き出したをしばらく瞳にうつすと、すぐ前にある雨で色を変えた岩に手をかける。
何となくと同じように聖域までの道をこなしてみたいと思った。
”力”は使わずに。
それでも辛くはないだろうけど。
岩についた手に体重をかけて。窪みを見つけて片足をのせて。


光速移動したっての心には近づけないから。

君の瞳にはまわりの風景はどう映るのだろう?
と同じ世界を感じてみよう。


何個目かの段差を乗り越えて、街よりも慣れた場所だと感じる風景に近づいてくるのがわかる。
雨は弱くはないけれど、前を行くとの隙間も、君の声が聞こえてくるまでの間も
優しく包むBGM。

が足を滑らせて傷ついたりしないように、自分の足元よりもその後姿。
湿気を含みすぎた前髪を無造作にかきあげた。


開けた視界に飛び込むのは・・・



ねぇ、・・・・?







の想い・・・いつかけりがついたらさ、ケジメがつけられたらさ・・・

感じる視線、うしろを振り向いてよ。

そこには君に恋焦がれた俺がいる・・・。

その心に俺を受け入れて?

はじめは”友達から”

はそんな事言いそうだけど。

でもいつか教えてほしい。













この恋の行方・・・














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