パタンッ・・・



二階にある自室のドアを閉め


ヘタリとその場に座り込んだ私に


母は下から声を掛けてくるが


曖昧にしか聞こえてこない



今私の頭の中は



サガのことでいっぱになっていた



今日、初対面のはずなのに


真剣な瞳で私との出会いが”運命”だと言ってくれた


素直にその腕に飛び込みたかったけど


「この指輪が私を現実の世界に引き戻してくれたのよね・・・・」



左薬指に輝くのはから貰った婚約指輪


それをジッと見つめる



「どうして私達は出会ってしまったのかしら?」


毎日が平凡だった


普通に幸せだった


これが当たり前だと思っていた



でも・・・・



「サガ・・・」


ベッドにうつ伏せになりサガの名を口にする



「貴方が私を運命だと言ってくれた時私も同時に貴方を運命だと思ったわ・・・・」



恋をするのに時間なんて関係ない


そんなの信じてなかった。



でもそれが実証した


私の心が確実にサガを認めた



「どうしてなの・・・・・?」


自然に溢れる涙は一体なんのため?


サガのため・・?

私のため・・・?


それとものため?



違う・・・・その運命を恨むわ・・・



「神様・・”運命”があるのならどうしてより先にサガと出会わせてくれなかったのよ!!」


叫びにも近い泣き声で


私はその運命を憎んだ



「どう・・してぇ・・・」



私は貴方に恋をしてしまったのでしょう?





貴方は私が結婚すると知っておきながら・・・・



どうして想いを伝えたのでしょう?



そして・・・私はどうしてその想いに揺れているのでしょう?




神様私は最低な女です




ずっとが好きだと思っていました



きっとその想いも本物だったとは思います


けど・・・・



私はどこかでこの平凡な毎日に飽き飽きしていたのかもしれません


彼はエリート会社に勤める人で



申し分のない人です・・・・


でも・・・気づかない間に


彼への愛が薄れていたのかもしれません


家も裕福で望めばなんでも与えられます。


彼もそんな人


私が望めば愛さえも与えてくれます



じゃあ・・・・望まなければ?



は私を愛してくれない・・・?




「・・・今ならまだ間に合うかも・・・」




携帯を片手に私は家を飛び出し


今の時間ならもう彼は家に居るはず



無我夢中で走り


彼の家に辿り着いた



インターホンを鳴らすとドアが開き



私の訪問に少し驚いている様子だった



?どうした・・・って走ってきたのか?」


彼はそう言うとそっと肩を抱き部屋へ招き入れてくれた



「どうした?俺に会いたかったのか?」


そう言って差し出された飲み物を飲まず私はジッと彼を見つめた



「ん?・・あぁ。そうだ今日はありがとう。おかげであの鬼サガに怒鳴られずにすんだ」


ニコッと微笑む彼を見たけど



今は何も感じない



それに一言、サガは鬼じゃあないわ。



「いいのよ」


きっかけは貴方が作ってくれたも同然



貴方が忘れ物なんかしなかったらきっと私は貴方と結婚したのでしょうね・・・



・・・・」


「ん?」



「大切な話があるの・・・」



「なに?」



大きく深呼吸をして心を落ち着かせる



「私、貴方とは結婚できない」


「!?」


彼が飲んでいたコップをバンッと机に叩き置く



「もう一度言って・・・」



とは結婚できないわ」


「どうして!!??何が不満だ!!今までなんの不自由なく暮せたのは誰のおかげだ!!」


キレた彼は私の胸倉を強く掴み上げる


「っ!!」


「お前が死ぬまで安心して暮せるように今の会社に入社するのも血を吐く思いだったんだぞ!」


グラグラと頭を揺らされ


見える



それこそ鬼のように見えた




ここまで私の気持ちがかわることに自分自身でも恐怖した



もう彼に対する愛もそうだけど彼から伝わる愛は一oたりとも感じなかった



もう・・・此処まで来ると終わりね。


!!何とか言え!!俺がどんな思いで!!」


「知らないわよ!!」


ようやく出た声に彼の力が緩みその隙に彼から逃れすこし距離をおいた


「私・・・確かに毎日平凡で幸せだった・・・」


「じゃあなぜだ!!」



「かもしれない」


「は!?」


「そう思い込んでいただけかもしれない。当たり前の愛に当たり前の幸せに満足してただけかも」


「おい・・・お前言っている意味がわからないぞ!!??」



「だからいつしかこの心は何も感じなくなったの・・・を愛する心も忘れてしまうぐらい・・・」



「俺はお前を愛してるぞ!!」


緩く首を横に振る私に再び彼の顔が強張る



「違うわ・・貴方はいつも世間体ばかり考えていた


  何もかも全てが完璧主義でそれを私にも押し付けていたの・・・」



「押し付けてない!!」


「貴方がそう思っても・・・私がそう感じてた。でも貴方のために頑張ったわ」


「じゃあ!いいじゃないか!!」


「もう疲れたの。」


あまりにも完璧主義のに私は良き妻になるためあらゆる習い事をした


それはとても自分のためにもなったし


良い事だとも思ったけど


「貴方は結局奥さんになるのが私じゃなくてもいいのよ。」


結婚をこだわっていた貴方の真相がようやくわかった気がする

家族をもつ男性職員が増え続けているため


焦った気持ちから今回の結婚話が持ち上がったのだ


私は・・・まだやりたい事が沢山ある


正直まだ結婚なんかしたくなかった。



!!!!俺は!!」


「本気で愛してた・・って錯覚よ」

「!!!!!」


力なく座り込んだを見て


「さよなら・・・・」


これほどまで私は冷たい人間かと思った


に恨みはない


自分が全部悪いのに・・・・


なのに・・・・


彼を悪者にしてしまった。


これだけで私はもう最低です。


神様・・・・



私は罪を犯しました


自分が真の幸せになりたいために


彼を裏切りました



「男か?」


部屋を出ようとした私に低い声が聞こえる


「おい・・・男か??」


「・・・・・」


「お前最低だな」


「そうかもしれない・・・・」


けど・・・・私を繋ぎ止められなかった


貴方にも責任がある



貴方よりもサガに惹かれたのは


外見うんぬんではなく


貴方自身に惹かれるところがなかったから




なんて・・・ちょっと悪い女になった気分



「相手は誰だ!!??」


「教えない。それとこの指輪・・もう必要ないから返す」


「なんだと!!!」

再び締め上げられると思った恐怖が胸を過ぎる







でも・・・









いつまでたってもその衝動はなかった



「あ・・・貴方は!!!!」



震えるの声に


ゆっくりと眼を開けると



私の前に



見覚えのある人が立っていた



「ど・・・どうして??」


ここはの家なのに・・・・



ってそんなことじゃなくって!!!


広い背中が私を守ってくれた





「ひっ!!!」


「アテナの命により今すぐお前を解雇する」


「!!!!!!」



きっと怒っているのだろう


先ほどのサガと比べたら


幾分かキツイ言い方だった



「そ!!そんな!!!!」


「だまれ」


そう言うと私の方へ向き直り


そっと頭を撫でてくれた



「お前の行動は見させてもらった。よく・・・頑張ったな」


優しく微笑む顔


暖かい手に


涙腺が緩み

自然に抱き付いていた



「おっと・・・まっ・・・いいか。」


ポンポンッとぎこちなく背中を叩いて宥めてくれる


この腕が安心できる私の場所




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