夜12時、ふたりしてベッドに身を横たえる。
は布団から出した手を胸の上で組み合わせて天井を見ているようだ。
そういう私は、枕2,3個を背もたれにして、ここ一週間寝る前に読みすすめている本を手に取った。
眠気を誘うための入眠剤といったところか。


寝室に移ると二人とも口数が少なくなる。
お互い眠気を断ち切らないように、相手のもたらす安らぎを感じつつ1人になる瞬間に入っていくのだ。

「ねぇ、・・・?」
「・・・なんだ・・・?」
いつもないタイミングでが口を開いた。

「カミュ・・・おやすみのキス、してくれなくなった。」
「・・・?」

「してくれなくなった。」
天井に向けていた視線は、このセリフとともに私に向けられた。
一瞬ぐっと言葉につまったが、の言いたいことは不満を含んだ瞳の色でよく伝わってきた。
さぁ、どうきり返したものか。

「ならば言おう・・・。」
読みかけの本をぱたんと閉じる。口調にクールをきどってみせる、もちろん悪ふざけだ。
は私が任務で早朝出発しても、玄関にさえ見送りにこなくなった・・・。」

「いってらっしゃいのキスがないだけでなく、起きてさえ来なくなった・・・。」
ちょっとした悲壮感を漂わせて、寂しげに天井など見上げてみせる。
さて、?君の反応は?

「・・・・・!」
「さみしい事だ・・・・」
そういってに視線をやると、申し訳なさそうな顔をしてスルスルと顔まで布団を引き上げた。
?」
「ごめんなさっ!!」
謝るやいなや勢いよく布団の奥底にもぐりこんでしまった。
姿を隠してしまったに内心焦る。サイドテーブルに本をおいてはらりと彼女の布団をめくった。
・・・?」
伸ばしかけた手が数センチの距離で止まってしまった。悪戯心はカードをめくったように簡単に動揺に姿をかえた。
の肩が小刻みに震えていたのだ。
・・・?どうした、さっきのは冗・・・」
「っっっ・・・・ふふふっ・・・・」
?」
「・・・ごめっ・・・わたしったら・・・・ふふふっ・・・・そうよね・・・」
細い肩は、こらえきれない笑いのために震えていたのだとわかった。
「わたしったら・・・やだ・・・ふふっ・・・」

私はそんなの様子に安心する。
”お互い様”
それに気がついてクスクスと小さく笑う・・・


私にはのそんな姿が前とかわらず愛しく思えるのだ

確かにここしばらく、おやすみのキスを忘れていた。
でも、への愛が薄れたわけでも何でもない。

うまい言葉は見つからないが、
きっと2人の関係が透明になってきた、そういう事ではないだろうか?
結婚するまでは相手が喜ぶように不自然なまでに懸命になったりするが、
今ふたりはふたりが一番心地よくいられる関係を築きはじめた
何かしてくれなくても、一緒にいるだけでいい、純粋な関係になってきた
私はそう思う。

いいわけになってしまうだろうか?

そんな思いを巡らせながら、の頭を撫でているうちに
笑いがおさまって、君は本当に優しい瞳で私を見上げた。

何も求めずこんな自然な表情をして私を見る、透明な関係だと思う。

「おさまったか・・・」
「うん。・・・おやすみのキスしなくなったけど、これはこれでいいかもね。
何か約束しなくても、こうして笑ったりして、”あぁ、カミュのこと愛してるんだ”って
実感できるんだから。」

どうやらも同じ感覚をもってくれているようだ。
「たまには、してほしくなるけど。」
「では、今日はキスをして休もう・・・・」

願いが聞き届けられた嬉しさか、ちょっと照れた表情をしてみせる
そんな初々しさが、クールをよそおう私の心を溶かしてしまう。
片腕をついて、に覆い被さる体勢になった。
もう片方の手で艶やかな黒髪を撫で付ける。
遠慮がちに揺らめく瞳
、愛している・・・」
「・・・カミュ、わたしも・・・。」

ゆっくりと距離が狭まって、おやすみのキスを交わした。
さて、悪戯をしかけようか・・・
「カミュ?・・・・1回でいいから・・・んっ・・・」
空気がほしいと、苦しげに私の髪を指にからめてうったえる。
「女性は触れられることで愛を確認するのだろう?」
「誰がそんな、こと・・・言っ・・・・」
への愛がなくなったと思われるのは困る・・・」
「・・・やだっ・・・どこに手ぇ入れてるの・・・!」
「大人しくしてなさい・・・・」
「やだっ・・・ぷぷっ・・・カ、ミュ!・・・・ぁん・・・・もう・・・」

君への愛ならいつでもこの胸に溢れている。
自分でも困るくらいに。


おやすみのキスひとつ
やはり明日も明後日も愛する貴女に捧げよう。













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