雨の降る夜、俺の部屋に訪ねてきたお前







何故こんなことになっているのか・・・





ナゼコンナコトニナッテイルノカ・・・・?





















”私・・・・シュラが、”
”!”
続く言葉を予想して、目を見開いた。
”シュラが、”
”おい、ちょっとまて・・・!”













”・・・・・・・・すき・・・・。”











交わされた会話のこの部分だけが
切り取られたかのように




頭の中で




繰り返され




友人という無言の約束




そう思っていたのは俺だけだったのだと




お前の思いつめた瞳に



これからすべてが







クルッテイク





予感













「は、・・・・・冗談はよせ。」
高まる緊張と動揺に意味のない言葉を吐く。
冗談でないことは、の瞳をみればわかった。
思いつめたように、悲しい色をやどして。
には、デスマスクがいるだろう。」
今この事実がどれほどの威力を持つというのか?
「そんな事言ってるんじゃない・・・。」
「じゃ、どんなことだ?」
真剣な気持ちが、胸に突き刺さる前に議論を中断してしまいたかった。
わざと冷たく突き放す。
「シュラが好きになってしまったの。」





部屋に響くのは時計の音だけ。
予想もしていなかったの告白に内心すごく戸惑い焦っていた。
この話をどう片付けるべきかもわからなくなりそうだった。
・・・」
言うべきことを言ったは下を向いて俺の返事をまっている。

「その気持ち迷惑とはいわないが、こたえられない事はわかっているだろう・・・」
冷たい言い方だが、期待をもたせるような中途半端な優しさはかえっていけない。
「うん・・・」
「デスマスクのところに戻れ。今のことは聞かなかったことにする。」

俯く彼女の落胆を目にすると、悪いことをしている気になってしまう。
「あいつを嫌いになったわけではないのだろう?」

の頭が縦に揺れた。
「じゃ、これからもデスマスクと一緒にいたほうがいい。」
「そういうコトじゃないの・・・・」

「そういうコト、じゃないの・・・」
「では何だ?」

「シュラと付き合えないのはわかってるから・・・」
「そうか」
「デスのこともキライってことじゃない・・・」








何かひと言言う度、少しの沈黙を作って今の自分をあらわす言葉を探しているお前。

「ひとつだけ、お願いをきいて・・・?」
「何だ?」

「・・・あの・・・一度だけ・・・でいいから・・・シュラに、・・・抱きしめて欲しい・・・」
そう言うなり、やっと合った視線を再び逸らして、肩を震わせる。
の気持ちにはこたえられないと言ったはずだ。」
そんな事できるはずがない。
お前の気持ちを聞いた後で、しかもデスマスクの彼女と知っていて
どんなふうに抱きしめろというのだ。
「シュラ、お願い・・・」
「いや、出来ない。」
間髪おかずに示した拒絶に、はぽろっと涙をこぼした。

「おねがい・・・一度だけ・・・・」
「だめだ。」

「シュラ・・・」
ただでさえ小さな声が、繰り返される問答にますます生気を失っていく。

「・・・・シュラ・・・・?」






「一度でいいの・・・・」
「いや、だめだ。俺はを友達と思いこそすれ、そういう対象とみたことはない。
それに友に後ろめたい事もしたくはない。」
「お願いシュラ。」
「だめだ。」
これ以上涙を流して懇願する姿をみるのはつらかった。
「シュラっ!!」
背を向けた俺のシャツを弱々しく掴んだ。
「おねがい・・・・一度だけ・・・・」
居場所を失った涙がポロリと落ちて頬を伝わる。
「お、ねがい・・・っ・・・・っ・・・・・っ・・・・」


もうそれ以上俺は拒み続ける事が出来なくなった。
人を好きになるという気持ちが
決して結ばれることがないつらさが
少しでもわかるからだ。

必要のない、してはいけない優しさだということはわかっている。
シャツを掴む手を無理やりほどくことも簡単だ。
そしてこの空間から追い出すことも・・・。
でも現実、手の甲で何回も涙を拭うを目の前にすると
そんなことは出来なかった。

「一度でいいのか・・・?」
うるんだ瞳で俺を見上げ、必死でこくこくと頷いてみせる。
「それでの気がすむのか?!」
やはりは頷いてみせたが、そうたやすく気持ちをきりかえられるとは思えない。

「ちゃんとデスマスクのところにもどれ・・・」
「・・・・うん・・・」

それから少し間があって、
俺はシャツを掴むの手をとった。




















「・・・・・一度だけだぞ・・・・?」
そう言って、の細い腰に手をかける。。
お互い遠慮がちにそろそろと体を寄せ合った。
その気がなくても、の女らしい丸みが伝わってきて、意識してしまう。

早くこんな事はおわらせてしまいたい。
それだけの為に、の満足を引き出す為だけに腕に力を込め隙間もないくらいに
抱きしめた。
の髪に頬を寄せる。
どこもかしこも包み込んでやることで満たしてやりたい。
少しあずけた俺の体重をが受け止めようとする。
堪えきれなくなって後ろに揺らめく。
本物の恋人のように・・・
心地よさを与えるように・・・・

きつく腕に力を込めるほどの体からは逆に力が抜けていく。

それがまるで
今まで願望が満たされなかった心の毒が抜け落ちていくようで

そのぬけた毒が
今度は自分に
罪悪感となって沈殿していくようで・・・

「シュラ・・・・・」
紅い唇から漏れた俺の名を聞いたとき、友を裏切った後ろめたさが破裂しそうになった。








・・・・」
拘束する腕をといて半分恍惚となったを引き剥がした。
突然の振動に、その体がくたっと揺れた。

・・・願いは叶えた。」
また夢から覚めきらない瞳を見て、俺の心はさらに動揺を増す。
「今日のことは忘れて、・・・デスマスクと幸せになれ、いいな・・・」
俺の言葉が正気に少しでも届いたかどうか。

いや届いてはいまい。
「シュラ・・・」
恋人に囁くように小さく唇を動かし、瞳に熱がこもる。
そしてゆっくりと俺の胸に頬を寄せて、再びひと時の夢に戻っていった。

お前がこれを今日限りとわかっているのか
もはや確かめることも出来ない。
「シュラ・・・ちゃんとデスマスクと幸せになるから・・・いまだけ・・・」

そろそろと回される腕をふりほどく事も出来ず。
これ以上毒が沈殿しないよう、何ものにも侵食されぬよう
密かに拳を握り締めた。

外ではまだ雨が降っている。




壊れたお前 


壊した俺 





モウオマエノヒトミニアイツハウツラナイ・・・・























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