The Asher Twist/アッシャー・ツイスト
レクチャーノート『Expanded Lecture Notes』収録(栗田研訳/マジックハウス)2000
Lee Asher/リー・アッシャー

演者はデックから4枚のエースを取り出し、残りをテーブルに置きます。4枚をよくあらためてから揃え、左手に表向きに持ちます。

パケットを両手の間にスプレッドすると、1枚のエースが裏向きになっています。両手に2枚ずつのエースを持ち、カードを擦りあわせて、たしかに4枚であることを示します。パケットを揃えて再度スプレッドすると、先ほどのエースに加え、もう1枚のエースが裏返っています。同様に3枚目のエースも裏向きになり、結局4枚すべてが裏向きとなります。最後に演者がトップのエースだけを表返し、パケットをスプレッドしてみせると、すべてのエースが表向きに戻っています。

Twisting the Aces(Dai Vernon)」にインスパイアされた作品は数多く存在しますが、「The Asher Twist」は、表裏反転の現象をElmsley Countを用いずに実現している点で他の改案とは一線を画しており、「Twisting the Aces」プロットの作品であることに疑いはありませんが、単純に派生形の1つと定義づけることに多少の躊躇を感じます。

Dai Vernonの手になる作品群が、「余分な動作をギリギリまでそぎ落とし、すべての動作に必然性を持たせる」といった考え方、いわゆるVernon Touchの結晶として構築されていることを考えると、「Twisting the Aces」のプロットをHalf Passで解決するという発想も当初から選択肢に入っていたのではないかと想像します。にもかかわらずElmsley Countを用いた手順として世に出されたのは、確固たる理由に基づいたゆえではなかったでしょうか。

近現代のクロースアップ・マジックは、SleightよりもSubtletyを重視する傾向があります。ひとつの例として、現象が起こる一段階ずつ前にすでに次の準備を完了しておく「One-Aheadの原理」と呼ばれるものがありますが、これによってDirty Workを行う瞬間と客の注目が集まるタイミングをずらし、現象の効果を高めることができます。

「Twisting the Aces」におけるDai Vernonの最大の狙いは、疑わしい動作を何ら行っていないのに、カードが1枚ずつ静かに反転していく不思議さだったのでしょう。その完成度を高めるためにOne-Aheadの原理を用い、パケットの状態を示すためにElmsley Countを取り入れたのだと思うのです。対して「The Asher Twist」は、パケットをクリアに広げて示すことを一義とした作品です。そのためFalse Countを是とせず、客の注目がもっとも集まる瞬間にHalf Passを行うという解決法を取っていることに、技巧主義的な色を感じます。

ちなみに、Lee Asherのレクチャーノート『Expanded Lecture Notes』には、「None-Ahead Matrix」という作品も収録されています。これはCoin Assemblyの手順ですが、タイトルが示すように、この種の手順では定石として用いられるOne-Aheadの原理を使っていません。「The Asher Twist」同様、現象が起こる瞬間、すなわち客の注目がもっとも集まるタイミングでコインのLoadingを行い、そしてそれを繰り返すことで手順が構成されています。

近現代のクロースアップ・マジックは、SleightよりもSubtletyに重きを置くと前述しました。この「The Asher Twist」は、Subtletyの名を借りて安易な問題解決に走りがちな風潮に対する、Sleightの逆襲とも見えます。


(参考)

◆ Book
・Dai Vernon「Twisting the Aces」『More Inner Secrets of Card Magic』(Lewis Ganson/Unique)1959

◆ Lecture Note
・Lee Asher「None-Ahead Matrix」『Expanded Lecture Notes』(栗田研訳/マジックハウス)2000