演者は有名な手順「Coins through the Table」を演じることを客に告げ、3枚の銀貨を机に並べます。続いて木製の小さな四脚テーブル（長さ9cm×幅15cm×高さ7cm程度）を取り出し、それが「Coins through the Table」を、机の下に片手を入れることなく演じるための道具なのだと説明します。

左手でミニテーブルを取り上げ、右手に持った1枚の銀貨を使って天板の両面をあらためながら、今から銀貨がミニテーブルを通り抜け机に落ちると説明します。ミニテーブルを机に戻して3枚の銀貨を左手で握り、甲を下にしてミニテーブルの天板を軽く叩くと、1枚の銀貨がミニテーブルの下に落ちてきます。手を開き、左手に銀貨が2枚しかないことを示します。

左手でミニテーブルを持ち上げて天板の裏側を見せ、そこに今貫通した銀貨をいったん置いて、穴などが空いていないことをあらためて示します。銀貨を取り除いてテーブルを机に戻し、1枚をミニテーブルの下に置いて残りの2枚を左手で握ります。左手でテーブルを叩くと再び1枚の銀貨が貫通して落ち、置いてあった1枚に当たって音を立てます。左手を開いて銀貨が1枚しかないことを示します。

もう一度、同様のことを行います。2枚の銀貨をミニテーブルの下に置いて1枚を左手に握ります。空中に向かって左手を開いて銀貨が消えていることを示し、あたかも銀貨が飛行しているような軌道を目で追いながら右手でミニテーブルを軽く叩くと、最後の銀貨が、置いてあった2枚の上に落ちてきます。

演者は客に、今度は3枚の銀貨を1度に貫通させると告げ、これもミニサイズのテーブルクロスを取り出してテーブルを覆います。左手で3枚の銀貨を、右手でクロスの掛かったテーブルを持ちますが、ここで演者の気が変わり銀貨は机に置いてしまいます。空の左手を机の下に入れ右手を緩めると、テーブルクロスだけが机に落ち、ミニテーブルは消失しています。貫通したミニテーブルを机の下から取り出します。

この作品の魅力はミニテーブルのチャーミングさ、そして握った掌で天板をノックするとポトリとコインが落ちてくる動きの楽しさに尽きると思います。予備知識のない客でももちろん楽しめますが、構想の元となった「Coins through the Table」を知っている人であれば、この作品の面白さを二重に味わうことができるでしょう。その意味ではマニアをにやりとさせる通好みの作品であるとも言えます。

細かなことですが、テーブルを裏返して貫通したコインをそこにいったん置くという、あまり必然性のない動作が手順の中に数回登場することが若干気になります。「天板を貫通して机に落ちる」ことを説明する動作とされていますが、この作品の些細な弱点であると私は考えます。
　また、この「The Table」と同様の現象をまったく異なった原理を使って実現する製品もありますが、上記の弱点はやはり解消されておらず、裏返したテーブルにコインを置く動作がどうしても必要になります。大筋のハンドリングに変わりはないので、どちらの製品を用いるかは好みの問題だと思います。

「The Portable Hole」の項でも触れましたが、David Rothは、単に山場を作る目的で、手順の流れを損なう大げさな現象を採り入れることを是としていません。重要なのは作品全体の調和だとする主張には共感を覚える人も多いでしょう。その哲学に基づけば「The Table」におけるミニテーブルの貫通をやや大仰と捉える向きもあるかもしれません。

『Expert Coin Magic』のSection Three「Magic at the Table」にはこの他にも、ユーモラスな小道具を用いた作品が多く収録されています。「私を含む多くのマジシャンは“袖”を使っているんです」と、切り取られた袖を取り出して客の意表を突く「The Sleeve」。コインを扱う「音」だけが時間差で聞こえてくる有名な「The Tuning fork」もこの章に収められています。「The Table」は単調で無機質になりがちなコインマジックの手順に、David Roth特有のユーモアと意外性を効果的に盛り込んだ傑作の1つと言うことができるでしょう。

【補足】
私がマジックの手順を説明するとき、通常は「テーブルに置く」というような表現を使います。ただしこの手順を説明するときに同様の書き方をすると混乱を招くおそれがあるので、あえて「机」と表記しました。

◆ Book
・David Roth「The Sleeve」「The Tuning fork」『Expert Coin Magic』（Richard Kaufman／Richard Kaufman and Alan Greenberg）1985