■ 複数の名称を持つ作品について

ヒロ・サカイの作品に「Gin & Bitter」という名のTriumph Effectがありますが、この作品は、初出したアメリカの雑誌には「Tokyo Triumph」というタイトルで掲載されたとのこと。氏は「Gin & Bitter」が収録されている作品集『8つの棺』の中で、「海外で作品を発表する際にタイトルを先方にまかせると大抵『Tokyo…』とか『Japanese…』とか非常に安直で野暮ったいタイトルをつけられてしまうので、注意しましょう」という有益な忠告をしています(笑)。
 私の手元にあるNick Trostの作品集『Subtle Card Magic』には、「日本の二川滋夫氏が私に見せてくれた手順」として「Japanese Ace Trick」なるCards Acrossが紹介されています。二川氏がその手順に「Japanese〜」といったタイトルをつけるとは考えにくいので、おそらくこれもNick Trostが命名したものなのでしょう。

以前このサイトで「Winged Silver(David Roth)」のEdge Gripを使ったバリエーションを「High Flying Winged Silver」と紹介したところ、“私の知っている「Winged Silver on Edge」と違う手順か?”との質問をいただきました。後日これについて調べてみると、2つはまったく同じ手順であることがわかりました。つまりDavid Rothの同一手順が『Expert Coin Magic』(Rechard Kaufman)の中では「Winged Silver on Edge」と紹介され、『Coin Magic』(Rechard Kaufman)では「High Flying Winged Silver」として収録されていたというのが実態だったわけです。

私は基本的に、作品の命名はその考案者が行うべきだと思っています。が、しかし考案者と執筆者が別人で、名付けを委ねてしまう(実に無欲なことだと思いますが)といった状況もしばしばあるようです。また、過去に発表した作品を別の媒体に再録する際、もっとふさわしい名前に付け替えたいと考えるCreatorのこだわりのために、名称が複数発生してしまう場合もあるのでしょう。かようにさまざまな原因によって、マジックの名称はときに混乱している場合があるのだと思われます。

それでは将来的に、こういったマジックの作品名をきちんと整理していくことは重要でしょうか? 私はこれに対して、さほど神経質になる必要はないように思います。第一に、上記したような特殊な例に比べ、きちんと唯一の名称が付されている作品のほうが圧倒的に多いという実際的な理由から。また、第二にはマニアの遊び心から。しかつめらしい理屈を並べるまでもなく、マニアの面々は「Tiltと称される技法を、実はVernonがDepth Illusionという名で別に発表していてね…」といった会話が大好きなのに違いないのですから(笑)。