日露戦争はともかくも日本に有利な形で講和が結ばれたわけですが、そのために最も力を尽くしたと言うべき人物、明石元二郎の若き日の物語です。戦う相手は日本の怪人稲城黄天(雑誌連載時は飯野吉三郎という実名で書いていたようです)、そしてロシアの大怪人ラスプーチン。ロシア皇太子に対する襲撃事件、いわゆる大津事件もからんで、複雑な物語が展開されます。
しかし、筑摩書房版のインタビューで森まゆみが言うように「ラスプーチンが出てくるのは後ろの三分の一くらい」なのです。それに風太郎答えて曰く「いやもちろんラスプーチンを最初から出すつもりだったが。明石元二郎みたいな、一種のリアリストですね、あまり魑魅魍魎を信じないという。その彼が、明治の魑魅魍魎と戦う話を書くつもりだったんです」とのこと。してみればこの作品には、雑誌連載時のタイトル「明治化物草紙」の方がタイトルとして相応しいかもしれません。
落ちをばらすのを承知で書きますが、この痛快無比な青年士官が苦杯を舐めることになろうとはなかなか予想し難いことでありました。…しかしそこで物語は冒頭に返り、日露戦争時の明石の活躍へと繋がっていくわけです。明石とロシアとの縁をこんな形で作り上げてしまう、その細工の巧妙さはまさに風太郎明治ものの真骨頂であります。ロシア皇太子の血友病治療にラスプーチンが力あった筈、という発想がこれだけの物語に発展したことを考えても、山田風太郎は日本にも希な構成力を持つ作家と言えるでしょう。
この作品は
講談社大衆文学館『忍法甲州路』に収録。
廣済堂文庫『天国荘奇譚』に収録。
ハルキ文庫『みささぎ盗賊』に収録。
廣済堂文庫『天国荘奇譚』に収録。
講談社大衆文学館『奇想小説集』、出版芸術社『怪談部屋』に収録。
文春文庫『明治バベルの塔』に収録、また筑摩書房より出版。
講談社大衆文学館『奇想ミステリ集』に収録。
双葉社『極悪人』に収録。
双葉社『極悪人』、廣済堂文庫『赤い蝋人形』に収録。
単行本は
講談社ノベルズから出版。出版芸術社『怪談部屋』、角川ホラー文庫『跫音』に収録。
講談社大衆文学館『奇想小説集』に収録。