その瞬間審査員席にいた全員が彼の巻き起こす衝撃波に
ぐんと上半身を仰け反らせた。ひどく目を見開いて・・・。

それは衝撃

そう、笑撃・・・


「さあ!!みんも!!・・・はぁはぁ・・・・手拍子をしてくれ!!!」
真白な歯を見せて最高の笑顔で、バイブレーターも真青なくらいに腰をブルブル振りながら
そんなことを求められれば、
「「「ぁ・・・ぁぁ・・・!!」」」
全員がパラパラと手をたたき始めた。

ここはブラジルか!?
リオのカーニバルなのか!?
そう思わせるほど、アルデバランのサンバは華やか、いやすさまじかった。

舞台の上でひとりで踊っているはずなのに、何故だろうバックダンサーズが見える、気がする。
目に見えぬダンサーズを従えて舞台狭しとその巨体をぶるんぶるるん!!いわせながら
今までの誰よりも派手なパフォーマンスを繰り広げる。

ミラーボールは本領発揮、アルデバランの体をこれでもかと照らし出す。
パンドラボックスが開いて何故聖衣がこんな事に協力したのかは今更問うまい・・・。
しかしヘッドパーツやその他いたるところに原色の羽飾りが差し込まれていた。
よく観察すると、ボンドででも接着したのだろうか、聖衣にスパンコールがまぶされている気が・・・。

なんだか聖衣が泣いている。
聖衣の魂が血の涙を流して慟哭している。
サンバはいいけど、羽飾りはいやだと!!


「オーレーっ!!・・・おーれぇーっ・・・はぁはぁ・・・ふんっ!!」
アルデバランが笑う。
激しい運動量に息をはぁはぁ切らせながらも、顔からカーニバルスマイルを絶やすことはなかった。
「せいんと、サァーンバァー・・はぁはぁ・・・・!!ほおっぅ・・・!!」
アルデバランがギラッと笑う。
今までの数々の戦いの中でやられっぱなしだっただけに、この瞬間は自分が主役
とばかりに、審査員席へアピールする。

ただ全員がアルデバランの求めるままに手を叩き、首ふり人形のように
彼の姿を目で追っていた。

そして最後のキメポーズ!
「はぁはぁ・・・・これで最後・・・!・・・・そぉれっ・・・オ・レェッ・・・・!!ふんっ!!」
掛け声にあわせてその場で足をならした時、審査員席で椅子に腰掛けていた者のからだが一瞬浮いた。
会場中が『あわや大惨事?!』と震撼したことに気がつくはずもなく、
アルデバランはひとり『はぁっほぉうっ!』言いながら、最後の最後までダンスに陶酔しているようであった。

やがて音楽が終わってステージ上から姿が消えても誰一人そのことに気がついていないかの
ように全員の手が機械的に動かされていた。
「ぉ・・・?おおっ!!いつの間に!!」
サガが催眠術から解けたかの如く間抜けな声をあげた。
「「ぁ・・・ぁれ?」」
と貴鬼が続いて気を取り戻した。
正気に戻ったものが、バカみたいに拍手を送り続ける者を揺さぶって
リオのカーニバルもどきから全員がようやく現実へと帰ってきたのであった。



全員が不思議に思う。”何だったのか”と・・・。



その後、シュラは実にスマートにサンバを踊ってみせ
カミュはバックにシベリアンダンサーズを従え、チームワークばっちしのサンバを披露した。
終わったあと滝涙でカミュ、氷河、アイザックが抱擁を交わしたこともつけくわえておこう。
アフロディーテは社交ダンスのように華麗に半分改造されたサンバを踊った。

シャカによって飛ばされたあの2人は、まだ帰ってこない、いや当分帰ってこない。

こうして、大体の者は楽しく、あるものは独り善がりに楽しく”サンバを踊る審査会”を
無事?終了したのであった。


問題はここからである。
夕食後、沙織を交えての報告会である。
下心を何とか隠して、全員がを見つめていた。
「さぁ、。そろそろ発表してもらおうか・・・・?」
サガが口を開いた。
お姉ちゃん、誰が一番よかった?」
貴鬼の質問に、黄金聖闘士たちがゴクリとツバを飲んだ。沙織もまでもが身を乗り出しぎみに
の言葉を待っている。
「「「!!」」」
「「さあっ!!」」
『別に誰でもいいいけど、俺だったらすっごくうれしいんだけどさぁ、いやホント誰でもいいんだけどさっ!!』
みんながみんな同じ顔をしてを見た。
「あのぉ・・・・」
困った。誰になんて決められない。
ヘタだったけど、最後まで頑張ったアイオリアにも彼が喜ぶのだったらキスをしてあげたい。
ド派手さが印象に残ったという事だったら、アルデバランも対象になるだろうし・・。
でも『一番うまく踊った人』へキスならば、誰だろう。
「さぁ、もったいぶらずにさっさと言いたまえ・・・!」
「うーん・・・。」
「気に病む事はないぞ。が決めた事に不満など言わん。」
「そうそう。キスされたヤツに、後で必殺技くらわせたりなんかしないって!!」
「「そうだ!安心して言ってみろ。」」

これはますます誰とは決められない。
キスされた人には、後で皆から攻撃されるということではないか。
「うーんと・・・・」

ゴクリ・・・・。

俯いた顔をあげてにっこり笑って嘘をついた。
「ゴメンっ!まだ決めてないの。」
黄金聖闘士たちから一気に力が抜ける。
半分立ち上がっていた者はどっさりとソファに身をおとした。
「なーんだよぉ、いつ決まるんだよ?」
デスマスクが再びタバコに手を伸ばした。
「まぁ、近いうちに、ね?」

は笑ってごまかした。
キスの話が消えないうちに、自分を選べと言わんばかりのヤツもいたが
『まぁ、ゆっくり決めればいいじゃないか』というふうに話も落ち着いて、この場は何とか逃れる事が出来たのだった。
これでサンバを踊る会も完全に終了になるかとは考えていたのだが・・・・。










夜中の1時






ドアの外
何故かの部屋の前で、作戦会議をするゴールドたち。
(ちくしょう・・・!アイオロスのやつ!!)
(油断も隙もありませんね。)
(余のに手を出すとは、フトドキ者じゃ・・・・!)
曲がり角から黒い影が自分たちの所へ向かってきた。
(シオン様、いつの間に日本にいたしらのですか?!)
(しかもあなたのじゃないですよ・・・)
(ところで、もう寝たのかな?)
(物音はしないぜ)
いつの間にか集まった聖闘士たちが、ドアに耳をおしつけて中をうかがっている。

その人数はだんだん増えていって。
(君たち、何をしているのかね?)
(うわっ。テメェこそ何しにきやがった!!)
(よ、・・・・よう・・・・)
(((わっ!!!)))
(今戻った・・・・)
(ミロ・・・・意外と、いや・・・かなり早かったな。)
(あぁ・・・サンバを踊らねばのキスがもらえないからな・・・あぁ、頭がガンガンする!)
(そんなの、とっくに終わっているぞ。)
(そうだろうと思って・・・これを持ってきたんだ。)
そういってミロが持ち上げたものはラジカセであった。
(ま、まさか君・・・)
(踊るにきまってるだろ・・・!!)
(やめろ・・・・)
(おい、老師はどうなされたのだ?!)
(部屋に帰った。六道抜けるのに、すっげー苦労してたから・・・・ジジイだし。)

(で、どうなったんだ?)
(サ、サガ?!)
アフロディーテは、あの後アイオロスがを影にひきこんだのを見たと告げた。
(あれは絶対キスをしたね・・・・)
(全くアイオロスのやつ・・・自分ばかりいい思いが出来ると思うな・・・・!!)
(むっ・・・何か秘策があるのか?!)
(それは・・・)
(ない・・・!)
その場にいた全員が脱力して崩れ落ちたせいで、数人がドアにぶつかる音が響いた。
(こらっ!静かにせんかっ!)
鉄拳が入る。
(ってぇーーーー・・・・・)
(とにかく、ここに集まったお前たちは、のキスがほしい、のだな?)
(((((((((((当然の権利だ・・・・。)))))))))))
お互いがライバルだと確認し合い、緊張が走る。
(誰がふさわしいかだな。)
(俺は一番ハデにサンバを踊って、の注目をあつめられたぞ!)
(そんなのがキスの理由になるか、)
(俺のサンバの時は、顔を紅くそめてたぜ。あれは気があるっつーことだ。)
ゴツン!!
(お前がヘンなサンバを踊るからだ!!このエロ蟹が!!)
(叩くな、このやろう!!)
一部で乱闘が起こり始める。
(っって!!こっちにまでもちこむなよっ!!)
とばっちりをくらった者が暗闇で適当に拳をふりまわす。
ソレがまた違う誰かにあたり
(このやろうっ!)
(いてーんだよっ!)
(小僧ども・・・うろたえるでないっ・・・・!)
(サガとめるか?)
(あぁ・・・こら・・・一旦離れろ・・・・!!)
どんどん収拾がつかなくなっていく。
そのうちひそひそ声が大きくなりはじめ、自分たちのいる場所が真夜中の廊下だなんて事は誰も考えてはいない。
場所が狭いので、壁にぶつかったり、廊下に転がったり。
(おやめなさい・・・・!!)
ねーちゃんにバレるよぉ・・・・!!)
(うるさいっ。のキスをもらうまでは・・・もらうまではっ!!)
(うおおおっ・・・・!!)
跳ね除けられた誰かがミロのラジカセにさわってしまった。


『オレーー!!オレーーっ!!チャチャチャッ!!聖闘士サ・ン・バ!!』


(誰かとめろぉぉーーーーっ!!)
突然の聖闘士サンバに全員が一旦手をとめ、『ラジカセはどこか?!』と廊下をはいずりまわる。
(ちくしょう・・・・どこだっ!)
ビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタ・・・・・・!!!
何十もの手が自分のまわりを手探りする音が不気味に聞こえる。


『強いぞっ3巨頭、必殺技でっ!た・お・し・まくろぉぉぉぉ・・・・!!』


(はやくとめるのじゃぁぁぁぁっ!!教皇命令ぞっ!!)
に見つかる前にはやくっ!!)
この期に及んでまだそんな事を言っているヤツもいた。
(おっ・・・・これかね?)
シャカが適当に何かのつまみに手をかけ、動く方向に動かしてみた。
失敗・・・・


『サァーーーンバッ!ビィバ・サァンバッ!!!セイントサァァァンンンバアアアアァァァァァ!!!!!』


(ラジカセをかくせぇぇぇぇ!!!)
(((((((((うおおおおおおお!!!!))))))))))
耳をつんざく大音響めがけて、全員がヤケクソになってとびかかった。
とりあえず自分の中に抱え込んで、スピーカーを塞ぐ作戦だ。
バタバタと人が折り重なる。
((((((ぐはぁっ!!!!!)))))))
不運にもアルデバランが一番上からダイブしてきたらしい。


『オ・レエェッ!!!』


くぐもった掛け声が小さく響いた、この瞬間全員がほおーーーっと安堵した。
と同時に
バッッッターーーーーーン!!!!
「ぶっ!!」
開け放たれた扉が誰かの顔にヒットした。
「うるっさいのよ・・・・・・さっきから・・・・・・!ねられないじゃなーーーーーーいっ!!!!」
目をつりあげたの怒りに、全員がそれぞれを押しのけあって何故かその場に一列に起立した。

まるで鬼教師のように、全員の前をいったりきたり。
「サガ。あなたがいながら、何なのよコレは・・・?!」
「・・・すまん。」
「ちがうの、何なのかってきいてるの・・・!」
「いや、・・・すまん・・・・。」
普段声を荒げることのないが、サガを集中攻撃している。


女はコワイ・・・・。


なおも続くサガへの説教。サガの前に立ち、他の男たちには目もくれず、ただひたすら説明を求めている。
反省文、始末書でもついてきそうな勢いだ。
みかねたシャカが口をはさんだ。
。君の怒りは尤もだが、この世界にはもっと他に怒るべき事があるのではないかね?」
もサガも全員含めて、どこか的のはずれた宥め方だと呟く。


よ、人々の欲望渦巻く汚れ切ったこの世界、自分を取り巻くもろもろのの事象に対する適切な対処の仕方と
感情のコントロールについて、この私が今から説・・・」
ギロっと思いっきりシャカを睨んだ。
「・・・・法を、こやつらにしてやろう。黄金聖闘士に相応しい振る舞いをもう少し身につけねばなるまい。・・・・。」
「そうだよな、俺たちもうちょっとお行儀良くしないと!」
「そうそう。」
「すまなかったな、。」
こうやって、うまーく誤魔化しながら男たちは引き上げる体勢に入った、サガをのぞいて。
そして全員がに背を向けて歩き出した時、
「ちょっと待って。」
先程よりは幾分優しくなったの声がストップをかける。
まだ何か?と言いたげに振り返れば、
「貴鬼君。」
が声をかけたのは貴鬼であった。
数歩進んで、はしゃがみこみ視線をあわせた。
「貴鬼君。今日はサンバとっても上手だったわ。」
「ホント?おいら上手に出来てた?」
「うん。」
照れてもじもじする姿に手をかけると、優しく笑ったの顔が貴鬼の横顔にすっと近づいて重なった。

(あっ・・・・・・!)

思わず声を漏らす者が数名。
はゆっくり顔を離すと、呆然とする面面に向けてふふんと笑ってみせたのだった。

『キスは貴鬼にしたからね。あなたたちにはないわよ。』
瞬時に理解すると、テンションが下がったかわりに・・・・

「ありがとう、ねーちゃん!!」
「いいのよ。」
「おやすみさなぁい。」
「おやすみっ。」
喜ぶ貴鬼に小さく手をふった。

「さぁ貴鬼、部屋に帰りますよ・・・。」
ムウが背中に手を添えた。
「よかったな、貴鬼。」
「みーんなが楽しみにしてたんだぞ?」
「へへへっ・・・・」
みんなの口元がヒクついている・・・・。
優しげに声を掛けてはいるが、手が拳になっている。
コメカミに浮かぶ青筋。
の視界から外れた所で始まるであろう制裁に貴鬼は段々青くなった。











さて、
この後サガが、予想通り反省文10枚提出をに命じられ、たっぷり説教され・・・・
二度と女神の怪しい企画にはのらないと誓った。

少なくとも自分は・・・・。


貴鬼はあの後部屋につくなり、正座させられ
その場にいた黄金聖闘士のお兄さんたちから、たっっっっっぷりとイヤミを言われた。
そして、多くの者が眠ったあともムウとシャカの小言をきくはめになったそうな・・・・。

















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