華麗にサンバステップを踏みながら、11人+1人は城戸邸内に設置された
会場へと場所をうつした。

「用意周到、だな・・・」
「あぁ。」
一段高い舞台と巨大スピーカー、ミラーボール、キラキラな飾りつけ。
本番があるのかどうか知らないが、まさしく本番さながらである。

舞台がよく見える位置に審査員席まで設けられていた。
「やるしかないわね・・・」
まぁ、私は踊らなくていいんだけど。
密かに胸を撫で下ろす一方で、なんだか11人がどんな踊りを披露するのか
早く見てみたくなってきたであった。

「サガ、どうするよ?」
デスマスクが進行を確かめる。
「よし。では下の宮の住人から順に踊ることにしよう。は審査員席に座っていてくれればいい。
順番を待つ者、終わった者も審査員席にて待機だ。いいな。」
「「「おう!」」」
全員が拳を高く掲げて気合を入れる。
この様子だと、先程のイヤイヤ気分ではなく、心から楽しんでいる者の方が多いようだ。
まぁ、それは”キスしてもらえる”からなのだろうけれど。

、しっかりみてろよ!オレ様の華麗なサンバを!」
「ダンスなら私も負けてはいない。のキスをもらうのは、この私。」
自信たっぷりなデスマスクとアフロディーテ。
「ふふっ。厳しく審査してあげるっ!」

こうして表向き”我が女神の為、イヤイヤながらサンバを踊る審査会”が幕を開けた。





会場の照明がおちる。ミラーボールが回転し始め、水玉模様のように舞台に光の粒が散らばった。
大音響で”聖闘士サンバ”のイントロが流れ始める。
「1番!ムウと貴鬼君!頑張ってぇー!!」
がアナウンスを入れ、残りの黄金聖闘士たちが口笛まじりに拍手をした。

「さ、いきますよ、貴鬼!」
端からムウと貴鬼が軽く走りながら中央まで出てきてお辞儀をする。
リズムに合わせて、二人がステップを踏み始めると皆が手拍子をはじめる。
ムウが貴鬼の様子を見ながら、踊る姿が全体をカワイイ感じにしていた。
「うふふっ。貴鬼かわいいー。」
要所要所で手のフリも完璧にキメながら、そつなくまとめていた。


ムウの番が終わって次はアルデバランのはずだったのだが。
「あれムウ?アルデバランじゃないの?」
席に戻ってきたムウはウーロン茶でのどの渇きを潤した。
「あぁ、何か準備があるとかで、後で踊るそうですよ。」
「ふーん、気合はいってるね。」
「それよりどうでしたか?」
呼吸をととのえ優雅な微笑をたたえたムウが出来栄えを確かめた。
「すっごくよかったよ。貴鬼も上手だった!」
「えへっ!」
「では、ご褒美は私がもらえるかもしれませんね・・・」
妖しく目を光らせるムウ。



舞台上ではサガとカノンが順番を迎えていた。
サガはあまり乗り気でないようだが、カノンは楽しんで踊っている。
「ぷぷっ!」
手拍子をしつつ、思わず笑いが漏れてしまった。
も気がついたか。」
「シュラも?」
「あぁ」
そう、ふたりのタイミングが何をするにもぴったりなのであった。
客席に向けて指を指すタイミングも、顔を動かす瞬間までが。
「双子ってまったく・・・ぷぷっ!」
○○○○サンバはメインが1人だが、こうまで一緒だと
”メインダンサーがふたりってのもいいわね・・・!”
心の中でこっそりつぶやいた。




「ある意味、すごいかもしれん・・・・」
「うん・・・」
踊り手はデスマスクにかわっていた。
手拍子をおくりつつ、全員があっけにとられていた。
「なんか、イヤラシイ、よね?」
「「「言うな・・・」」」
そう、デスマスクは間違いなくサンバを踊っているのだが、なぜかイヤラシイ。
音楽にあわせて軽快に中央まで戻ってきたデスマスク。
突然フリには決してなかったはずのウゴキを勝手に取り入れた。
「きゃっ!」
は両手で顔をおおう。
「おるぅあぁぁぁぁ!しっっかり見て審査しろぉっっ!」
腰を八の字にクネらせながら、舞台からにむかって叫ぶ声。
「やぁだぁ・・・!」
そうかと思うと、今度は前後にふり始める。
「お前のあえぎ声!高まる鼓動!衝動にまかせて腰ふりまくろぉーーー!!!」
即席で歌詞をつくりながら、高速で腰を打ち付ける動作にはいった。
「きっ!きもちわるいぃぃぃ!!退場ーーーーーー!!!」
の叫び声と同時に数人の聖闘士が舞台に駆け上がり、
デスマスクを羽交い絞めにして舞台裏に引っ張っていった。
「くぉらぁぁぁl!!なんでだあぁぁぁぁ!!」
「ばかあぁぁぁーーーー!!!」
誰もいなくなった舞台に虚しくメロディーだけが響き渡る。
しばらくして激しい爆発音と悲鳴が会場中に響き渡る。。
「ったく、あんなことしてるからよっ!」
「大丈夫だ。デスマスクはの半径5メートル以内には近づけさせないから。」
「ありがと、アフロディーテ。」
カミュがぽんとの肩に手をのせる。
「そうだ。安心するがよい。」
「ありがと、カミュ。」



次のアイオリアは終始照れた様子でフリをこなしていった。
あまりにカチコチになって踊るので、励ましてみんなが手拍子をするのだが
余計萎縮してしまったようであった。
「ありゃ・・・」
「腰元ダンサーズ決定、だな・・?」
の隣でタバコをふかしていたカノンが呟いた。
「そうだね・・・」
でも懸命に踊っている姿を見ると、ほっぺにチュっくらいはしてあげたいと思うであった。




さて、お次は
「ネクストッ!神に最も近い男のシャカーーー!!拍手ーーーっ!!」
ある意味全員が興味津々な彼の出番である。
シャカの登場を待って審査員席に集う者がゴクリと息をのんだその時。
ミラーボールの光を受けながら、イントロの軽快感を完全に無視したシャカが舞台脇から
スタスタと登場した。
「「「うっ!」」」
ここは振り付けによると、軽く走りながら舞台を1周して中央まで進み出る所なのだが
「フリを忘れたのか、マイペースなのかよめん!」
「しっ!余計なこと言わないで下さいよっ!」
登場から独自の世界を醸し出すシャカに批評を下すシュラをムウが制した。

大股でザッザッと中央まできたものだから、次のフリまで間が出来てしまった。
見ている方としては、居心地が悪いのだが本人に気にしている様子はない。
そしてステップに入る直前、いきなり両手をあわせたかと思うと
手の中から数珠を取り出したのであった。
「「「「うわっっっっ!!!」」」」
審査員席の黄金聖闘士は全員が身構え、は反射的に頭を抱えてうずくまった。
何が起こるかとその姿勢で待つこと数秒・・・・・
何事もなく流れる聖闘士サンバに全員が舞台を見ると・・・
「ひょ、ひょっとしてマイクのかわりか・・・・?」
カノンが手を下ろしながら警戒を解いた。
とうの本人はそんな様子に気づくこともなく片手に数珠を持ちながらステップを踏んでいた。
「まぎらわしい・・・・」
サガがいまいましげに呟く。
「しっ!」

「それにしても・・・」
「あぁ・・・」
シャカの踏むステップにあわせて数珠が揺れている。
「「「「へんだ・・・」」」」
サンバに数珠、不釣合いである。

そして曲がサビまで来た時である。

オーレー! オーレー!
クキッ!!
ロボットのようにこちらに向けられる瞳を閉じたシャカの顔。
「「「「ぷっっっっ!!!」」」」

聖域サ・ン・バ!!
膝で屈伸運動をしながらリズムを刻む。

オーレー! オーレー!
クキキキッ!!
再びこちらに向けられる眉間に皺の寄ったシャカの顔。
「「「ぷぷっっっっっっ!!!」」」

聖闘士サ・ン・バぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
膝の屈伸運動でリズムを刻みつつグリコのポーーーーーーズっ!!!
「「「「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・!!!!」」」」
「こっ、殺されるぅ・・・・」
もはや審査どころの話ではなくなっていた。
笑いをこらえるので精一杯な状態で、シャカから目を逸らさざるをえない。

は隣に座っているシュラをチラリと覗き見た。
膝に置かれた拳はフルフルと震えていた。
さらに視線を上に向けると、きつく結ばれた口がピクピクと微妙に動いている。

ここまでくると何を見てもおかしく思える。
”見てはいけない!”と心の制止も聞かず、そぉっと顔を上げれば・・・・

完全に自分の世界に入っているシャカは、
こちらに向けて指をさしたり、
右に走ってはクイクイッと腰を振り、同じく左に走ってはクイクイッとリズムを刻む。
中央に戻ってきてその場ステップで円を描き、

長い髪が右に左にパサリパサリ・・・・
握られた数珠まで楽しげに右に左に・・・

”見るんじゃない!!”
チラミするに小声でシュラの制止がはいる。
”だ、だってぇ・・・・”
は脇腹をおさえながら必死で笑いをこらえた。
”け、決して笑ってはいけませんよ・・・”
説得力のないムウの表情。
”も・・・もう、限界だよぉぉぉ・・・・ふふふふむぐぅ!!”
・・・!!だめだ!こらえるんだ・・・”
笑い始めたの口をアフロディーテが急いで塞ぐ。
”ふははは・・・・拷問だあぁむぐうぅぅ!”
の口を塞ぎつつ笑い始めたアフロディーテの口をカミュが塞いだ。
3人がジェンカのようにつながっている。
”ムウさまぁ!お、おいらも・・・”
”貴鬼・・・こらえなさいっ・・・!”
この後数分にわたって地獄が続いた。

それも漸く終わりを見た時フェイドアウトするメロディーのかわりに
舞台脇からすさまじい笑い声が浮かび上がってきた。

出番を待っていた童虎とミロである。
”やばっっ!!!”
全員が緊張を高める中、シャカの顔には不機嫌な色がみるみるうちに広がっていった。
数珠を握り締めて、大またで声のする方向へ向っていく。
「あいつら、早く気づけっ!!」
先程の乱闘でボロボロになったデスマスクがテレパシーで注意しようとした瞬間
「いい加減にしたまえっっっ!!!」
空間が歪むような音に、ふたりの小宇宙とともに笑い声が吸い込まれていった。

”い、生きてるといいけど・・・あのふたり・・・”
”どこにつきおとしたんだ?!”
”堪えて正解だったな・・・”
”私のようにこんな時こそクールであればよかったものを・・・”
”カミュ、親友をひとり失ったな・・・”
これ以上シャカの気分をそこねないように、ひそひそと話をした。




ここで一旦休憩時間となったのだが、
審査員席に戻ってきたシャカに
「どうだったかね?」
ときかれて、再び地獄を見るハメになった。

もちろん
「とってもよかったよ!」
といったのだが、
「ほう・・・下を向いていても君にはこのシャカが見えたのかね?」
ときかれ、冷や汗ものだった。

「あ、あのぉ・・・それはねぇ・・・・」
と周りに助けを求めたが、ほしくもない茶などを飲むフリをした全員に無視されたであった。







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