奥のほうからコツコツと足音がする。
宮に響く音は次第に大きくなり、人と思しき影が近づいてきた。

か・・・?」
ミロは十数メートル手前で止まった影に話しかける。
声に反応してまた歩き始める。
ようやく目の前に来たはこわばった表情をしていた。
「すまなかったな。呼び出したりして。」
「いいの、別に。」
用件は2人ともとうに知っているはずなのに、前置きを作ろうとしている。
そんな必要はないのに。

「ずいぶん遅かったんだな。今日は忙しかったのか?」
「うん・・・」
はうつむいたまま、俺を見ようとしない。
きっと早く終わらせてしまいたいと思ってるんだろう。
、電話でも言ったとおり話があるんだ。ここじゃ何だから俺の部屋にきてくれないか・・・」
「・・・・・」
相変わらず目をそらしたまま、返事をしない。

 決着はつけたいけど、話はしたくないという訳か・・・
 君はいろんな意味で優しいから”行く”とも”行かない”とも言えないんだろう。
 それならそれで構わない。
 むしろ好都合だ。


「こっちだ・・・」
うながすようにの肩に触れた。だが、足に力を込めて部屋に行くことに抵抗をしめした。
「私、部屋には・・・いけ」
「こっちだ。」
言葉を遮って、半ば強引に部屋へと導く。
抵抗することは許さない。


 、俺はもう迷いは捨てた・・・!







を先に部屋にいれてからドアを閉めた。
「あがってくれ。」
数歩進んだものの、依然たちつくしたままの
聖衣からマントをはずしてソファに置いた。
静寂が痛い・・・。

・・・」
の両肩を手で包む。言いたいことは沢山あったはずなのに、どう伝えたらいいのかわからない。
「俺を見てくれないか?」
そう言われてやっと俺を見る。君が言いたい事なんて、拒絶の言葉ぐらいだろうに。
それなのに瞳が何かをうったえているように思える。
、俺の気持ちはもう知っているだろう?」
無言でうなずく。
「ずっと前からが好きだ。あいつよりもずっと・・・。」
困らせているのは承知の上・・・

「俺には友情以外のものはないのか?」
微妙に視線を逸らす。
「・・・ミロの気持ちは嬉しいけど、・・・ごめん・・・。」
そんな返事はききたくない。

「俺にはしかみえない・・・」
「ミロ、やめて・・・!」
「忘れようとも思った。何度もそうしようとした。
だが、どうやっても・・・出来ない。あきらめきれないんだ。」
「ミロ、ダメだよ・・・」
肩に置かれた手を払いのけようとする。
「ミロ、もうやめよう?ね?ホントに嬉しいけど、・・・・今更どうにもならない・・・。
私がしてあげられるコトなんてない。」
そう言ったの瞳は涙が滲んでいた。
「いや、あきらめられない。」
「わたしには、・・・カノンがいる。」
一番ききたくなかった言葉。
「関係ない。俺の気持ちを誤魔化すつもりはない。」
「やめて、ミロ!こまる・・・。カノンが好き。カノン以外の人なんてみたくない・・・」
カノン、カノンとの口が動く度に、おさえていたものが爆発しそうになる。
「何度でも言う。俺はが好きだ。愛している。気持ちを誤魔化すつもりはない。」
「やめてっ!!!」
初めて声を荒げた。

悲鳴のように、悲痛な叫び声。


「やめて、ミロ・・・っく・・・っ・・・っ・・・・もうやめて・・・」
俺の手を振りほどいて床にしゃがみ込んだ。
の鳴く声だけが部屋に響き渡る。
俺はそんな様子をしばらくの間見ていることしかできなかった。









部屋に響く嗚咽。

 そんなに俺が嫌か?
 そんなに俺の気持ちが迷惑だったか・・・?
 カノンのことが



 ・・・・・そんなに好きなのか?




「ごめん・・・」
目線を同じにしようと、しゃがみこんだ。
「ごめん・・・」
もう一度小さくつぶやく。嗚咽は止まりそうにない。
「困らせたいわけじゃなかったんだ。」
そう言うと、は首を横にふった。
がカノンを好きなのはよくわかった・・・」
「・・・ごめん・・・っ・・・なさい。」
「だが、さっきも言ったように気持ちを誤魔化すつもりはない。」
「・・・・!」
「かといって、が俺を愛してくれる事を期待してもいない。」
不安な色が瞳に広がっていくのがわかる。
・・・」
どうか拒まないでほしい。悲しい言葉はききたくない。
「俺にの思い出をくれ・・・」
「思い出・・・?」
の手をとり強く握る。


 どうか願いを叶えてほしい


に・・・触れたい・・・。」

「ミロ!どういう意・・」
「ことば通りの意味だ。を抱きたい。」
頬が一瞬にして赤くなる。俺の目をみつめたまま硬直している。
「・・・そんなこと。」


 拒まないで・・・


「一度でいい。」
そう言っての手を引いて胸の中に抱きしめた。わずかな抵抗を封じ込める。
「無理よ・・・」
を抱く・・・。」
「ダメ!」
「・・・一度きりだ。拒まないで。」
一旦束縛をといてを見る。
抱きしめている間中、ドキドキし続けていた鼓動、聞き逃さなかった。


 君の瞳は戸惑っているけど、真意はどっち?


・・・?」
瞳を覗き込む。
「ダメ、だよ。・・・こんな事カノンにばれたら・・・・」



















”カノンにばれたら・・・・”






それがの本当の心なの?










そう思っていいんだな?





「カノンにばれなければ、俺に抱かれてもいいのか?」
「ミロ・・・!」
「いいんだな?」
「ちがうっ・・・!」
心が動いたこのチャンスは逃せない。
「カノンにばれる心配はない。万が一カノンが今任務から帰って来たとしても、
天蠍宮でのの小宇宙の高まりや動揺は、さっきから俺の小宇宙で覆い隠してある。
ここでなにがおこっているのかは、誰にもわからない。」
「ダメだよ・・・」
の記憶も消してやる。忘れてしまえば、罪悪感はない。」
「・・・・」
・・・?」
「・・・・」
「一度きりだ。自身を俺に与えてくれ・・・」
「・・・・」
?」
「・・・・」
「いいんだな?」
返事を出来ずにいるの手を引いて立ち上がらせた。
その手をひいて、寝室へとむかう。

















寝室へ迎え入れてベッドに座らせる。
月の光に照らされる不安げな瞳。





そんなの瞳から視線をそらさないで、



顔を近づける・・・
















の視線が俺の唇へとむけられ・・・





君はそのまま瞳を閉じて・・・








蒼い闇の中・・・・・

















ふたりはじめてのキスをした・・・。



















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