作品・あ行



嗚呼益羅男

 五十音順だとこれが最初に来るわけです。妙なものではありますが、山田風太郎のある一面がよく現れている作品とも言えるかもしれません。
 主人公は江戸時代初めの牢人者、山寺竿兵衛。風呂屋で口にした戯れ言がたまたま当たってしまったために、ひとの根相を見て吉左右を占う「男根占い」を始める羽目に。いや、占いだけならまだしも。さらに彼の考えついた奇抜な仕事とは一体何か…とまあ、性器を主題とした忍法帖の一変奏と言うべき作品です。講談社ノベルズ『くノ一紅騎兵』、廣済堂『切腹禁止令』に収録。しかし、山寺竿兵衛は忍者でもなければ、男根占いは忍法でもないのですが、それでも忍法帖コレクションに入ってしまいました。風太郎忍法帖というものが、他の忍法もの小説などとは根本的に別物であることが察せられます。

あいつの眼

赤い靴[妖異金瓶梅1] 作者評価:A

赤い蝋人形

 廣済堂『赤い蝋人形』に収録。

悪霊の群

 高木彬光との合作。帯には「日本最初の合作探偵小説」とあります。
 中身について一言でいえば、古うございます。1951年から52年にかけて書かれたのだから仕方がない、当時の世相を映している部分も多いのだし、と弁護はむろんできますが、それでもやはり古いのです。むろん私は単に「古い」と言いたいのではなく、残念ながら「良くない」と言うためにそう言うのですが。なぜといって、横溝正史の『獄門島』や江戸川乱歩『孤島の鬼』には決して「古い」という言葉は当たらないではありませんか。ここで何がいけないのかを具体的に言うことは難しいですが、山田風太郎の書いた同時代ものは、今から見るといかにも古色蒼然というものが多いのは事実でしょう。高木彬光についてはよく言えないのですが。
 内容は本格推理に付き物の連続殺人事件。それに新聞記者・真鍋とその恋人・素子の恋愛劇、さらに旧伯爵家の遺児たちの復讐劇が絡む中、風太郎唯一の名探偵・茨木歓喜と、高木の生み出した名探偵・神津恭介が謎解きに挑むのだが……とでも紹介されましょうか。しかし全般に低調です。人を引き込むものが乏しいのです。私が特段に推理小説好きというのではないせいかもわかりませんが……。コメントしづろうございます。
 単行本は出版芸術社から出ております。

悪霊物語[連作第三回]

 春陽文庫『殺人迷路・悪霊物語』に収録。

明智太閤

 廣済堂文庫『江戸にいる私』に収録。

赤穂飛脚[妖説忠臣蔵] 作者評価:C

跫音

 角川ホラー文庫『跫音』に収録。

あと千回の晩飯(エッセイ集)

 単行本は朝日新聞社から出版。

雨の国

ありんす国伝奇(短編集) 作者評価:C

 単行本は富士見時代小説文庫から出版。

行灯浮世之介[妖説忠臣蔵]

 ハルキ文庫『幻妖桐の葉おとし』に収録。


伊賀忍法帖 作者評価:A

 この物語は、伊賀の笛吹城太郎が妻であった篝火の敵を討つ、というメインプロットを持っているのですが、なかなかどうして、そう簡単に復讐譚と片付けてしまえるものではありません。物語の序盤で死んでしまう篝火のかわりに、ヒロインとして現れる右京太夫が篝火に生き写しという設定は、この種の設定を好む本格推理からの遺伝でしょうが、それが風太郎忍法帖ならではの、肉体と心の「入れ替え」という主題と呼応して、物語を複雑にしています。要するにこの物語には、篝火と右京太夫に加えて、松永弾正の寵姫漁火(篝火の頭を持った)という三人の同じ顔を持つ女性が現れて、それぞれに「入れ替わり」を演じるのです。右京太夫を初めて見て、その篝火と酷似した顔に幻惑された城太郎が、さらに右京太夫と入れ替わった漁火から誘惑される場面など、読んでいてゾクゾクしますよ。また、復讐譚というプロットが徐々にこの「入れ替わり」に影響されて、城太郎が美姫右京太夫を守護する話へと変貌していく過程も、物語と設定との噛み合わせが上手く行っているためでしょう、説得的に進められます。
 果心居士、松永弾正久秀、千宗易、柳生新左衛門こと石舟斎に、上泉伊勢守といった一癖ある登場人物たちに加えて、廃虚と化した大仏殿のような舞台設定、平蜘蛛の釜に妖しい淫石という道具立ても魅力的。城太郎に襲い掛かる七人の忍法僧たちの操る術も快調です(中でも傑作なのは虚空坊の操る、四次元ポケット傘バージョンとでも言うべき「忍法かくれ傘」でしょうか。いったいどんなんなってるんだーっ)。忍法帖随一、とは言わないまでも、Aランクの資格を十分に備えた力作と言えましょう。
 単行本は
講談社ノベルズ富士見書房時代小説文庫から出版されています。

伊賀の散歩者

伊賀の聴恋器

生きている影[連作第二回]

生きている上野介[妖説忠臣蔵] 作者評価:C

泉探偵自身の事件

いだてん百里(連作短編) 作者評価:D

 単行本は廣済堂文庫の山田風太郎傑作大全の一冊として刊行されています。

一、二、三!

 廣済堂『切腹禁止令』に収録。

一刀斎と歩く

いろは大王の火葬場

 短篇集『明治バベルの塔』の一篇として、筑摩書房文春文庫によって出版されています。

陰萎将軍伝

 廣済堂『剣鬼と遊女』に収録。

陰茎人

 講談社大衆文学館『奇想小説集』、出版芸術社『怪談部屋』に収録。

淫の忍法帖

 


ウサスラーマの錠

海鳴り忍法帖 作者評価:B

 単行本は講談社富士見出版から出版されています。

漆絵の美女[妖異金瓶梅6] 作者評価:A

うんこ殺人

 出版芸術社『怪談部屋』に収録。

雲南

 


永劫回帰

 出版芸術社『怪談部屋』に収録。

江戸にいる私(1959年)?

江戸にいる私(1973年)

 廣済堂文庫『江戸にいる私』に収録。

江戸忍法帖 作者評価:B

 単行本は講談社富士見出版から出版。

エドの舞踏会 作者評価:A

 一言でいえば、泣かせる本です。
 山田風太郎はしばしば「フェミニスト」と評されますが、それは作中の女性がただ男に守られるにとどまらない存在であるがゆえでしょう。忍法帖でもまず「柳生忍法帖」がそうでした。「くノ一忍法帖」でも女達が男と対等以上に戦っています。忍法帖では男女ともに性器を武器にし得るという意味においても、男女間の優劣が消去されていると言えるでしょう。
 この「エドの舞踏会」では、明治維新の舞台裏にいた強い女達の姿が描かれています。芸者姿にもどって啖呵を切る伊藤博文夫人、妾を作った夫に対し静かに意趣返しをする山県有朋夫人、三島通庸をあくまで「にこやかに」恫喝してみせる陸奥宗光夫人、等々。しかし何と言っても泣けるのは、「ル・ジャンドル夫人」のラストでしょう。天覧歌舞伎の演目に「連獅子」が本当にあったのか、それを竹松が演じたのか私にはわかりません。しかし、この場面の構成の妙は山田風太郎の真骨頂です。この点については、説明不可能としか言えません。とにかく読んでみて下さい。
 そう言えば、「森有礼夫人」のところで出てくる子守歌は、山田風太郎が自分で作ったものだそうですね。舞台化する際に歌の出どころを問われたのに対し、「あれ、ぼくがつくった子守歌だ」と言ったら相手がずっこけていたそうです
(^^; (菊池秀行との対談:『風来酔夢談』所収)
 この作品は、
筑摩書房の「山田風太郎明治小説全集」(文庫版・愛蔵版)で手に入ります。

閻魔天女[妖異金瓶梅5] 作者評価:A

 


お江戸英雄坂

 廣済堂文庫『死なない剣豪』に収録。

お江戸山脈[いだてん百里] 作者評価:D

大いなる伊賀者

大谷刑部は幕末に死ぬ

 河出文庫『おれは不知火』、廣済堂文庫『ヤマトフの逃亡』に収録。

起きろ一心斎

 廣済堂文庫『長脇差枯野抄』に収録。

お玄関拝借

 廣済堂文庫『死なない剣豪』に収録。

お女郎村[帰去来殺人事件]作者評価:C

おちゃちゃ忍法腹

 集英社文庫『秀吉妖話帖』に収録。

鬼さんこちら

 小早川武史の妻滋子が、会社の金を持ったまま失踪した。衣服等は発見されたが、金と滋子は見つからず、殺人を偽装した盗難と判断される。武史は滋子のことなど忘れたように、新たな恋人の百代と結婚するが、武史に慶事がある度に、滋子らしい女性の遺体が発見されたと知らされる…。
 この作品は推理ものというよりは、サスペンスとかスリラーとかいうカテゴリーに分類されるのでしょう(この辺のジャンルについては何があるのかよく知りませんが)。主人公(あるいは、語りを方向づける視点を持つ人物)がホッとしたところに、怪物がバアと顔を出す、というのはスピルバーグでもお馴染みの手法です。この作品では怪物のかわりに、滋子と思われる死体が現れるわけです。この作品が短篇でありながらも構成的に魅力を持つのは、サスペンスの部分が同時に「滋子はどこへ行ったか?」という謎を解くのに貢献しているためです。風太郎現代ものの中でも、よくできた短篇のひとつでしょう。
 
集英社文庫『天使の復讐』に収録。

お庭番地球を回る

 講談社『くノ一紅騎兵』に収録。

おれは不知火

 河出文庫『おれは不知火』に収録。

俺も四十七士[妖説忠臣蔵] 作者評価:C

女が車に乗せるとき

女狩[帰去来殺人事件]作者評価:C

女死刑囚

 角川ホラー文庫『跫音』に収録。

女探偵捕物帳

女の島

 ハルキ文庫『黒衣の聖母』に収録。

おんな牢秘抄 作者評価:C

 単行本は角川文庫から手に入ります。
 

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