あくる日。

一行は東京上野のグラード財団のパチンコショールームに到着した。
エントランスを潜り廊下を抜けると、壁に取り付けられている
数十台にも及ぶ”CR黄金の戦士たち”があった。

「うわー!!嬉しー!何だか気合がはいるわぁ!」
パチンコといものを見るのが初めての黄金聖闘士達は興味深げに台をのぞきこんだ。
「昨日が説明してくれた通りだな。」
「ここに玉が入れば当りの抽選がされるのか・・・」
それぞれが2・3人ぐらいのグループにかたまりふんふんと頷いている。

各自が好きな席に着くと、いよいよ勝負がはじまった。
よ。忘れるでないぞ。」
後方からシオンの声がきこえた。
「ふっ・・・。このような運がらみの勝負は、日頃の行いの良い者が勝つのだ。
やるだけ無駄というもの。」
シャカがはやくも勝利宣言である。
日頃の行いの良さで勝利を収めようというのなら、
どうして目を開いて台を真剣に睨んでいるのかと、つっこみたいであった。
「では、はじめ!!」
サガの一声で欲望の為だけの勝負が始まった。


銀色の玉が釘にあたってははじけて色々な方向に流れてゆく。
玉がチャッカーに入り画面の図柄が回転しはじめる。

「ほう、こういう仕組みになっているのか。」
アイオリアがつぶやく。
全員が中央に設置されている液晶画面に釘付けになっていた。
なにしろ自分たちが登場するのだから、興味津々というものだろう。
そのうち、あちらこちらでリーチが懸かる音が聞こえ始めた。

の台はなかなかスーパーに発展しなかったが
左隣のミロの台はスーパーに発展する。

「おっ!見ろよ、これ。サガだぜ。」
近くにいた者はミロの画面を覗き込む。
サガがギャラクシアンエクスプロージョンでハズレ図柄を次々に蹴散らして、大当りを目指す。
なかなか見ごたえのある綺麗な画像である。
画面の中のサガは懸命になっているが、結局ハズレてしまった。
「ちぇっ。だっらしねぇの。」
「ミロよ。本物のギャラクシアンエクスプロージョンで貴様ごと吹き飛ばしてやろうか?」
台の中だけの話とはいえ、必殺技が決まらないのは納得いかないらしい。

!スーパーがきたぞ!」
右隣のカノンにもようやくチャンスがやってきた。
「誰のリーチかしら?」

一瞬画面が暗くなりシュラが現れた。
エクスカリバー!と叫びながらやはりハズレ図柄を切り裂いていく。
手刀から鋭い光が地を這うように走り、なんとも言えずかっこいい仕上りだ。
「きゃー!!シュラ!がんばってぇ!!」
カノンよりもの方が気合が入っている。
たとえ台の中の話だとしても、シュラを応援されるのは感に触る。

(こんなリーチは外れてしまえ!!大当りくらい自分の技でもぎとってくれるわ!!!)
カノンは頭のなかで叫びまくる。

結局最後の図柄は切り裂けず、見た目派手な演出のわりに
あっさりとはずれてしまった。
は冷たい視線で真後ろのシュラを睨む。
「・・・なぜ俺が責められるのだ?」
やはり納得のいかないシュラであった。

「お!こ、これは・・・!」
アイオリアが顔を赤らめた。どうやら自分のスーパーリーチへと発展したらしい。
画面の中のアイオリアはライトニングプラズマで
ハズレ図柄を切り裂いていく。
金色の閃光が画面を覆いつくし、キメ顔がアップになる。
テレまくる実物のアイオリア。
が、キメたわりにうかびあがったのはハズレ図柄であった。

ガッターーーーーーーーン!!!!


椅子が転がる音に、全員が勢いよくふりむく。
「何故きまらん?!! このアイオリア、ライトニングプラズマが
きまらなかった事など一度もなーーーーーーい!!!」

「ま、まぁ落ち着け・・・。」
なだめるアフロディーテによって椅子に座ったものの
手はワナワナと震え、ハンドルを握り潰すのではと思われた。
頭の中には”レオの誇りが打ち砕かれた”事しかないようである。
この時点で、最も勝利からかけ離れた存在になってしまった。


突然派手な効果音が響き渡った。

どうやらその出所はデスマスクの座る台らしい。
「デス!ちょっと、まさか・・・!」
「そのとーり。大当り。確変ゲットー!!」
「なんでよりにもよってデスが当りをひくわけ?!」
くっくっと笑いながら、タバコの煙を吐き出した。
「そりゃぁ、気合が違うのよ、気合が!!」

(こういう場合の気合だけは人一倍だろうに・・・)


「目標を達成するためには気合が大事なんだよ!」
「目標じゃなくて、欲望じゃないの?デスは。」
「なんだっていーんだよ。とにかく気合!!
欲望を満たすのも気合!! ハーデスを倒すのも気合!!!!」



(・・・蟹。お前には言われたくない・・・)


淡々と自分の台に集中しつつ全員が心の中でつぶやく。





2時間後・・・
が席をたって他のメンバーの様子を伺うと・・・


ものすごい事態になっていた。



きっとあの後怒りが収まらなかったのであろうアイオリアのハンドルは
握り潰された為か、形が歪んでいる。

カミュは長いハマリのせいだろうか?台の淵に氷柱が何本もぶらさがっている。
隣のアイオリアが何度も爆発する度に、
「アイオリアよ、クールになれ。」
などど言っていたのは聞こえていたが、彼もまた違う意味でクールになっていたようである。
台のガラスは曇り始めている。
このままでは機械が停止するのも時間の問題かもしれない。

この2人とは対照的に機嫌が良かったのはシャカであった。
何しろリーチの中では最も興奮を誘うであろう連続予告に自分が起用されていたのだ。
色んな方向から
「来たぞーーー!!!」とか、
「待ってましたぁ!!」
などと言われれば機嫌も良くなるというものである。
シャカ自身も何度か連続予告がらみのリーチで大当りを引いていたらしい。
席の後ろに6箱のドル箱がつまれている。
やっぱり運って日頃の行いによるのかと思ってしまうのであった。

サガ。
彼の周りからは近寄りがたい小宇宙が感じられる。

台もガラスにヒビがはいっていることから察せられるに・・・。

5箱の持ち玉を使いきっている、かなりの大ハマリであった。
本人に声をかける気にはならない。
そろそろ星々の散るさまと台のガラスが砕け散るさまが見られそうである。

デスマスクは席の後ろにドル箱を13も積んでいる。
タバコ片手にふん反り返って、自分の勝利を疑っていないらしかった。

同じくご機嫌なのがアフロディーテ。優雅な微笑を浮かべて打ち続けている。
ドル箱もデスマスクとタイで13箱。
運がよければ価値ある勝利を手にすることができるのだ。
カミュの小宇宙のせいで右半分が凍傷寸前であったが、めげるわけにはいかない。
不機嫌になっているヒマはないのである。

カノンは箱数こそ3とすくなかったが、もはや勝負はどうでもいいようである。
理由はやはりリーチアクション。
一度ハズレても、カノンが登場すれば大当り確定の
プレミアムカットインに採用されていたのだから。
前後左右から彼を有難がる声がきこえてきた。
「ふっ・・・。やはり最後に頼りになるのはサガではなく、この私というわけか・・・。」


CR黄金の戦士たち。双子の軍配はカノンにあがったようであった。


(ふう。残りあと2時間か・・・)


のドル箱はたったの1箱・・・。
(とりあえず誰が勝つにしても、下心みえみえのデスマスクとシオンだけはいやだ。)

情けないと思いつつ、他の誰かに自分の運命を託すのであった。






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