2002年12月
- オープンエアーの密室(2001/12/18)

今年もフィギュアスケートのシーズンとなった。11月で殆どのモーター
スポーツが終わってしまうと我が家としては寂しくなるが、10月から各種
ウインタースポーツが始まるので、冬には冬の楽しみ方があるのだ。
だが、2002年2月のソルトレイクシティー冬季五輪。ペア/アイスダン
スでの『疑惑の採点』によって、フィギュアスケートのイメージはすっか
り地に墜ちてしまった。
それを機に、今年京都で開かれたISU(国際スケート連盟)総会で、採
点方法の見直しが行われた。次にISU総会が開かれる再来年まで、ひとま
ず新しい採点方式を試行するらしい。
今回は、この10月から12月にかけて開催された、フィギュアスケートGP
シリーズの結果を通して、このフィギュアスケートの新しい採点方法と、
できれば「採点式競技の難しさ」についてあれこれ語ってみたいと思う。
先述の通り、コトの発端となったのは2月のソルトレイクシティー五輪
における、ペアの競技での採点に関する疑惑である。
ショートプログラムで1位をとったのが、エレーナ・ベレズナヤ/アン
トン・シハルリゼ組(ロシア)。一方2位につけたのが、隣国・カナダの
ペア、ジェイミー・サレー/デビッド・ペルティエ組。
フリーの演技では、ロシア組が「タイスの瞑想曲」にのせて、情感あふ
れる演技を披露。途中のサイドバイサイドジャンプの着地で、シハルリゼ
が若干着地を乱したが、演技そのものは相変わらず観客の感情に訴えかけ
る艶やかさ。カナダ組と、もうひとつのメダル候補ペア・申雪/趙宏博組
(中国)の演技を残した時点で、暫定トップを獲得した。
直後に、カナダ組の演技が始まる。直前のウォームアップ中に、滑走し
ていたサレーとシハルリゼが衝突するというアクシデントがあったせいも
あり、無事に滑走できるかどうかが危ぶまれもしたが、最終組6ペアのう
ち5番目の滑走だったこともあり、滑走までに回復はした。
そして、カナダ組はひとつのミスもなく、「ある愛の詩」のメロディに
のせて最初から最後までシンクロした演技をノーミスでこなした。そして
ジャッジが下る…が、順位点でロシア組を上回ることはできず2位のまま。
些細なとはいえミスのあったロシア組の方がカナダ組より上だったという
ことで、会場の観客からもブーイングがあがった。
そしてその翌日、採点に関する談合じみた疑惑が発覚する。フランスと
ロシアの審判の間で、採点に関した「取り引き」があったというものだっ
た。
・フランスのジャッジは、ペアの演技でベレズナヤ/シハルリゼ組
に1位の順位点を与える
・ロシアのジャッジは、アイスダンスでフランスのカップル(マリ
ーナ・アニシナ/グウェンダル・ペイゼラ組)に1位の順位点を
与える
というものだ。ロシアマフィアまでも絡んでいると噂されたこの採点疑
惑により、フィギュアスケートそのものがスキャンダラスな視点で見られ
ることとなってしまった。
結果として、フランスのジャッジは資格剥奪。ペアのメダルについては、
カナダ組・ロシア組双方に金メダルが与えられることで決着を見たが、何
とも後味の悪いリザルトとなってしまった。やり直しとなった表彰式で、
カナダ組・ロシア組それぞれの選手の首にかけられたメダルが、あまりに
も色あせて見えたのは、俺に限らずあの出来事を見ていた人すべての印象
ではないだろうか。
この騒動を受けて、シーズン終了後のISU総会で、採点方法の変更が決
議された。
これまでは、9人のジャッジ全員の得点が順位に反映されていたか(各
ジャッジの国籍も表示されるため、誰がどんな得点・順位点をつけたかも
判明した)判るようになっていたが、新しい採点方法では、10人いるジャ
ッジのうち、コンピュータで無作為に選出された7人分の得点だけが反映
されることとなった。しかも、ジャッジの国籍も表示されなくなったため、
誰がどのような点数をつけたかも不明。そして、どの点数が採用されたか
も不明という、何とも「見えづらい」採点方法となってしまった。
例えば、以下のような採点があったとする(フィギュアの採点は6点満
点の減点法)。
技術点 5.1 5.1 5.2 5.2 5.2 5.4 5.5 5.7 5.7 5.8
芸術点 4.9 5.0 5.0 5.1 5.2 5.3 5.5 5.6 5.6 5.8
このそれぞれから、7人分ずつが無作為抽出される。つまり、高い方の
点数を削られれば当然点数が低くなるし、逆に低い方の点数が削られれば
高い順位を獲得できる。公正さをうたうためにコンピュータを導入したの
かもしれないが、上述の通り高い方の点数が削られれば、いい演技をして
も順位が低く抑えられてしまうことだってある。逆に不公平ではないのだ
ろうかと思う。
また、誰がどのような点数を組み合わせたのかも不明だ(画面上の点数
は、低い方から順に表示される)。フィギュアスケートを観戦する上で、
実はジャッジの採点傾向をさぐるというのも楽しみのひとつ。それすらも
判らなくなってしまったことで、誰がどんな順位店をつけたのか、そのジ
ャッジは演技のどんなところを見て採点しているのかも見えなくなってし
まった。リンクという公開の場で行われている競技だというのに、何とも
不透明な、密室談合的な順位決定がなされてしまうこととなったのだ。
ただ、これによって、ショートプログラムで思ったより低い順位だった
としても、フリーでいい演技をすれば逆転の余地が出てくることにもなっ
たのだが(実際、今季のGPシリーズでは、そのような逆転劇がアイスダン
スや女子シングルで起きている)。
しかし、採点競技の最たるものであるフィギュアスケートで、その最後
の採点というものがコンピュータによってなされるというのは、何とも味
気ないとはいえないだろうか。
この採点方法の変更と時を同じくして、多くの有力スケーターが競技会
への参加を見合わせたり、プロへ転向したりしてしまった。
ソルトレイクシティー五輪で悲劇の渦中におかれた2組−ベレズナヤ/
シハルリゼ組と、サレー/ペルティエ組。ロシア組は、ISU主催大会には
向こう2年間参戦しないということを表明したなどとニュースで聞き及ん
だ。一方のカナダ組はプロへ転向。また、ある意味で騒動に巻き込まれた
アイスダンスのアニシナ/ペイゼラ組も、今季のGPシリーズには参戦しな
かった。
その分、新しい勢力が台頭してくる可能性も広がるから、見てる側から
すれば楽しみが全くなくなったわけではない。だが、結局採点方法があま
りに不透明なために、新しいスケーターたちの真の実力を測りにくいのも
事実である。
これまで今季のGPシリーズはほとんどTVで見たが、何だか心の底からは
楽しめなかった。
採点方法のひとつとして、モーグルのエア点やジャンプの飛形点で用い
られている「複数ジャッジの採点のうち、最も高い点数と最も低い点数を
除いた他のジャッジの点数の平均を採用する」という方式はとれないのだ
ろうか。談合さえなければ、方法としては現在考えられる中では限りなく
ベストに近い方法だと思うのだが(もちろん、ジャッジも人間だから多少
のえこひいきはあるだろうが、その点は致し方ない部分だと思うので)。
少なくとも現行の方法では、真剣に頑張っているアスリートたちに対す
るリスペクトの念に著しく欠けていると言わざるを得ない。
2年後に次回のISU総会が開催されるが、その時には少なくとも「現行
の採点方法以外」のものを採用してもらいたいと思うのは俺だけではない
と思いたい。

