2003年9月
- Come Out And Play!(その2)(2003/09/14)

ファンでない人には全くどうでもいい話だが、現在日本に存在するプロ
レス団体は、50以上にもなると言われる。
30年以上の歴史を誇る、新日本プロレスや全日本プロレスといった老舗
団体から、みちのくプロレス・大阪プロレスといった「地域密着型」の団
体、あるいは団体としての体裁をなしているのかどうかも不明な泡沫団体
まで、かなりのプロレスファンを自認する俺ですら「世の中にはこんなに
プロレス団体があったのか!」と驚かされるくらいである。
しかも、男子プロレスと比較してマーケットの小さい(と思われる)女
子プロレスですら、自主興行系のユニット等も含めたら両手で足りないほ
どの団体数がある。
力道山の昔と比べるとある意味マイナーではあろうが(地上波ゴールデ
ンタイムにレギュラー放送枠がないことがその証左かも)、ファンにとっ
ては選び放題。殺伐とした戦い(いわゆる「ガチファイト」)が好みであ
れば、ボクシングやK-1・PRIDEといった競技もある。
プロレスファン/その他格闘技ファンにとって、今の時代は史上もっと
も幸せな時代なのかもしれない。
今回は、そんな「爛熟状態」ともいえるプロレス業界から、先日TV番組
(試合の中継ではない)でそれぞれ取り上げられた、ある2つの団体を通
して、プロレス団体とはどのようにあるべきなのかを、シロウト観点では
あるが語ってみたいと思う。
ウルティモ・ドラゴンという覆面レスラーがいる。
本名を浅井嘉浩といい、かつてユニバーサルプロレスやWAR(いずれも
現在は消滅)といった団体で活躍し、ジュニアヘビー級統一8冠王座も獲
得し、一時代を築いたレスラーだ。
その彼が1997年にメキシコで立ち上げた団体、−それが「闘龍門」だ。
正式名称は「Ultimo Dragon Gym」というのだが、この団体は単なるプ
ロレス団体ではない。授業料を払って、現地のコーチからプロレスを学ぶ、
いわば「プロレス専門学校」である。
入学資格を定義するとすれば、「プロレスに対する熱意」があること。
他の団体で体格不足(身長が足りないなど)により入門を断られた者であ
っても、ここではその熱意さえあれば大丈夫なのだ(実際、現在の闘龍門
の主力選手のひとりであるドラゴン・キッドは、身長わずか161cmだ)。
メキシコのプロレスは「Lucha Libre」と呼ばれ、飛び技を主体とした
展開の早い試合が多い。また、それぞれに特筆すべきキャラクターを持っ
た覆面レスラーが多いことでも知られる。
闘龍門に「入学」した者は、このメキシコプロレスのあらゆる要素を学
び、かつプロレスそのものの基本もみっちり叩き込まれる。そして、メキ
シコでのデビュー後、ある程度の成績を残した者は日本へ帰国(いわゆる
「卒業」を認められるわけだ)し、闘龍門ジャパン(1999年設立。闘龍門
の本拠はメキシコなので、いわば「日本法人」といえるか)所属の選手と
して活躍することとなる。
で、この闘龍門が現在大人気を博している。毎月定例興行として打たれ
ている後楽園ホール大会は、殆どが平日開催であるにもかかわらず、毎回
大入り満員。他の団体がなかなか満員にできない神戸ワールド記念ホール
での興行(毎年6月末〜7月初旬に記念大会として開催される)も、地元
(闘龍門ジャパンの所在地は神戸である)ということを抜きにしても驚嘆
するより他にないほどの客の入りを記録する。年間の興行数も170以上を
数え、現在日本で最も多くの興行を打つ団体としても知られる。
この闘龍門の経営面を取り仕切るのが、自らもかつてWAR等で活動して
いた、岡村隆史社長である。
先日、その岡村社長に密着取材をしたドキュメント番組が放送された。
テレビ東京系で放送されている『BB-WAVE.tv』という番組(毎週土曜日・
22:30〜22:54)である。
この番組は、雑誌『日経アソシエ』とのメディアミックスによる番組で、
各界でいわゆる「勝ち組」として活躍する人々を取材し、その成功の理由
や秘訣を解き明かしていくというものだ。7/19の放送分で、岡村社長が取
材されたのだ。
6/29の神戸ワールド大会(ジャパン4周年記念大会)から、その直後の
九州巡業にかけて、カメラは岡村社長の言動に密着した。
九州巡業のスタート地点となったのは、宮崎県延岡市。ここは岡村社長
の母方の地元ということで、プロモートにも思い入れがある模様。社長は
精力的に地元商店を巡り、チケットの販売を委託していた。
そこで初めて知ったのだが、闘龍門の地方大会に関しては、プレイガイ
ド売りよりもそういった「地元での手売り」の方が圧倒的に多いというこ
とだった。大会終了後には、チケット販売を手がけてくれた方々のもとへ
お礼に伺い、次回以降の興行でも協力を依頼していた。
また、所属選手の出身地周辺興行では、選手にある程度の枚数のチケッ
トの販売を任せるという手段をとっているということも判明。しかも、そ
うやって販売したチケット代金の20%が選手の取り分になるというのだ。
ファイトマネーの他にそれだけの収入を得られるとなれば、選手も(いろ
んな意味で)頑張るというもの。そうやって選手のモチベーションを高め
ているということも判り、非常に興味深かった。
また、この団体は、ファンとの交流を非常に大事にしている。試合会場
でも休憩時間や全試合終了後にサイン会を実施したり、選手と一緒に出か
ける日帰り旅行等のイベントを定期的に開催していたりする。
そうやって選手と身近に交流できるということで、ファンはより選手を
身近に感じ、応援にも力が入るということなのだろう。
しかも、各選手はそれぞれに明確なキャラを持っているため、ファンは
自分の好みに即した選手を自由に選んで応援できるのだ。
常にファンの方を向き、多くのファンに受け入れてもらえるマーケティ
ングを実施し、さらにそれに安住することなく新たなマーケットを開拓し
ようとすることで、結果的に団体もさらなる成長をしてゆく、という好例
なのではないだろうかと思った。
それからしばらくの後、闘龍門とは好対照な状況にある団体のトップが、
あるトーク番組に出ていた。
フジテレビの『ミライ』(毎週月曜24:58〜25:28)という番組がそれな
のだが、そこに、全日本女子プロレスの松永高司会長が出演していた。た
またま深夜にザッピングしていたら目が留まったという程度だったので、
正確な放送日は失念したが、確か8/11ではなかったかと思う。
日本初の女子プロレス団体として旗揚げした時から、一世を風靡したビ
ューティーペア・クラッシュギャルズの頃、そして現在に至るまでの裏話
を、司会である笑福亭鶴瓶と木村祐一のトークにノセられながら、あれこ
れと披露していた。
しかし、そのトークの中身や語り口調からは、プロレスに対する情熱と
いうものは、まるで感じられなかった。もともと番組自体がある意味淡白
なつくりであったせいもあるかもしれないが、結局は一家で経営している
団体(全女は、高司会長と、故・俊国社長が経営していた上、高司会長の
妹さんも奥さんもレスラー。経理等の実務面も一族で取り仕切っている)
の儲けばかりを考えたような展開づくりばかりをしてきたようにしか、俺
には感じられなかった。しかも「行き当たりばったり」。先の先まで見据
えた戦略などというものは、そのトークからは見えなかった。
(当時としては?)美形で、かつ体格にも恵まれたマッハ文朱が大ブレ
イク直前に引退すると、ジャッキー佐藤とマキ上田の2人を「ビューティ
ーペア」というコンビに仕立て上げ、レコードデビューまでさせた。
結果的にはこれがブレイクし、第1次女子プロブームを築くのだが、人
気絶頂だった頃に、佐藤と上田の2人のシングルマッチを日本武道館で行
った。それも「負けた方が即引退」という条件で。
結果として、マキ上田が負けて引退するのだが、その日を境に興行成績
は下降の一途。あっという間に借金は5億円まで膨れ上がったという。
それから5年後、長与千種とライオネス飛鳥による「クラッシュ・ギャ
ルズ」が女子高生らの人気を博し、1年で借金を返済。
しかし、クラッシュ引退後は、またもや不振に陥り、それ以降は相次ぐ
選手の離脱等もあり、現在では借金は35億にまでなっているという…。
ブームになりそうな企画を仕立てることはできても、長期的に女子プロ
の人気を定着させられるようなストーリー展開やマーケティングをしてこ
なかったツケが回ってきたとしか言えない。90年代初頭に隆盛を極めた、
団体対抗戦(ブル中野や北斗晶が、LLPWの神取忍と繰り広げた名勝負は、
今でも語り草である)からすらも何ひとつきっかけをつかめなかったばか
りか、ファンをつかめずに潰れていった数多の団体(男女問わず)からも
何も学んでいなかったということになる。
現在でも、所属選手が櫛の歯が欠けるように続々と離脱しているにもか
かわらず、残った選手へのケアも不充分なように思われる。一族郎党でな
ぁなぁやらかして、己に利益をもたらしてくれる選手への気遣いができて
いないのだ。
それはひいては選手の試合内容にも影響するのではないかと思う。明日
をもしれない団体で、選手がいい試合をできるとはとても思えない。
闘龍門と全女を比べて思うのは、結局プロレスというエンターテインメ
ントの向こうに、それを下支えしてくれるファンの存在をちゃんと見てい
るかどうかということではないだろうか。
自分たちの立場を守ることばかりに目が向いているような団体は、早晩
ファンからも見放されるだろう。
ショウビジネスというものは、見てくれているファンに夢や楽しみを与
えてくれるものでなければならない。そのためには、どれだけファンとし
っかり向き合えるかが重要な気がする。
全女がそれを思い出してくれるのかどうか。学んでくれるのかどうか。
プロレスファンとして、ひとまずは失望を期待で糊塗しながら見守りたい
と思っている。

