2003年11月
     
  1. ものいわぬきみは、そらのとおくでなにおもう。(2003/11/30)

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ものいわぬきみは、そらのとおくでなにおもう。


  あれから、7ヶ月が過ぎた。
  多くの人が、心の奥底に例えようのない空虚な思いを、−埋まることの
 ない穴を抱えつつ、その原因(というよりも「責任の所在」か)を知りた
 いと願っていた。
  11月28日に、その事故の原因究明のために設置された委員会が、報道陣
 向けの調査結果発表を行った。
  今回の『辻斬り』は、その記者発表に関して、俺の思うところを書く。


  当初、ホンダは「マシンに異常は見受けられなかった」とし、詳細な原
 因の究明を避けようとしていた(少なくとも、俺にはそう感じられたし、
 他の多くのファンもそう感じたのではないだろうか)。
  しかし、あまりの事態の大きさ(当たり前だ。人ひとり死んでるんだか
 ら)にさすがに危機感でも感じたのか、外部に事故調査委員会を設置して
 事故発生原因の究明にあたることとなった。
  そして、音沙汰のないまま6ヶ月。11月も最終週になって、突然「報道
 陣向けの調査結果発表を行う」というアナウンスがあった。しかも、その
 ニュースはなぜか国内のメディアではなく、海外のモータースポーツニュ
 ースサイトから伝わってきた。

  そして11月28日。都内のホテルにて、その発表は行われた。
  文章ベースの調査報告の他に、検証に使用した「証拠品」を撮影した写
 真のスライドなども使いつつ、説明は実施されたようだ。
  だが、ホンダの公式サイトで発表されたのは、その調査報告の「抜粋」
 でしかなかった(Daijiro.netに転載された内容も、ホンダ公式サイトに
 記載された「抜粋」の内容)。
  結局、国内でもっとも詳細に報告の内容をファンに伝えてくれたのは、
 ロードレース情報サイト「rsj.jp」だけだった(それでもやはり「抜粋」
 ではあるのだが)。
  以下、rsj.jpに掲載された調査報告の内容を見て、俺の感じたことを書
 く。


  日本語版の抜粋をひととおり読んだが、そこから感じたのは
  「とりあえずデータとかいろいろ検討して、一生懸命調査はしまし
   たよ」
  という、いわば「意気込みのようなポーズ」だけだった。
  パーツの検証については、それぞれのメーカーに依頼し、その結果を報
 告しているが、公正を期するなら、完全に利害の及ばない第3者機関にで
 も依頼するべきではなかったのか。
  サスペンションはSHOWA・ブレーキシステムはブレンボと、それぞれの
 メーカーは、同時にマシンコンストラクターであるホンダ(この場合であ
 ればHRCか)に対してパーツを供給している「サプライヤー」でもある。
 そこに利害関係が絡まないと言い切れるのか。その点がどうも疑問として
 残る。

  さらに、すでに「はるか過去の事故」だから仕方ない側面もあるのかも
 しれないが、報告文の殆どは推測に終始したものばかりとなっている。
  しかも、参照した画像データのうちひとつは、事故直後にネットでもさ
 んざん出回りまくった、シケイン手前の自由席から観客がデジタルビデオ
 で撮影した画像らしい(「シケイン手前100m付近の観客席から撮影された
 画像」という表現からもそれは推察できる)。
  再生スピードを相当なコマ数まで落とせば、解析の参考になるのかもし
 れないが、少なくとも俺はあの映像を見ても、マシンに何があったのかな
 んて判らなかった(むしろ、NHK-BS1の中継画像の方が、130R立ち上がり
 で大治郎のマシンがウォブルを起こしている様がよく判ったが)。

  車載データロガーから得たデータも解析に用いているが、そのデータか
 らどのようにして発表できるような結論を導き出したのか、その論拠も明
 確には記されていない。
  そもそも、それ自体ホンダ自身が「異常はなかった」と明言したデータ
 だ。調査委員会がそれを調べ、その結果「やっぱ車体側に異常がありまし
 た」ということでもなれば、ホンダのメンツは全くもって丸つぶれになる。
 それを考えると、データロガーからの調査に関しては特に、真に公正な調
 査が行われたのかどうかをつい疑ってかかってしまうのだ。
  結局、

  「所詮、ホンダの肝いりで設置された委員会なんだな」

  というのが、正直な感想だ。


  だいたい、大治郎がまだ病院で生への帰還を果たさんとしているまさに
 その時に(実際は事故後数日で脳死状態だったらしいが…)、まるで先手
 必勝とでもいわんばかりに「マシンに問題はなかった」と発表したことが
 許容しがたい。それこそ「俺のせいじゃないもんね〜」と言い逃れをしよ
 うとしているととられても仕方なかろう。
  さらに、事故後にホンダの同僚である宇川徹や、HRC監督である岡田忠
 之が、ファンから情報を集めようとした時に、ホンダはそれを止めさせた
 などという話も聞き及んでいる(真偽のほどは定かではないが)。
  それがほんとうのことだとしたら、ホンダは自ら、真相を究明したいと
 いうファンやライダー仲間の願いを握りつぶしたことにはならないのか。
 そしてその結果がこれでは、誰が果たして心の底から納得するというのか。

  そのくせ、レースで大治郎のすぐ後ろを走っていたライダー(宇川もそ
 のひとりだ)の証言を集めるでもなかった。
  自らに非があるかどうかはともかくとしても、原因を限りなく完全に近
 い形で究明しようという真摯な気持ちがあるなら、それくらいのことはし
 てしかるべきではなかったのか。
  東京中日スポーツの記事では、
  「(1998年2月に)青木拓磨がテスト中に事故を起こした(注:こ
   の事故で拓磨は下半身不随になり、GPライダー生命を断たれた)
   際はだんまりだったことを考えると、今回の対応は進歩と言える」
  との記述があったが、ただ調査するだけなら俺たちファンにだってやろ
 うと思えばできることだ。
  日本のみならず、世界のロードレース界にとって最高最大の才能が、自
 社マシンに乗っている際の事故で失われたという事実。
  ファンに対しても、そしてロードレース界に対しても誠意を見せるべき
 ではなかったのか。ホンダの対応には、ずっと「誠意」を感じることはで
 きなかった。

  しかも、調査委員会の発表はあくまでプレス向け。結局ここでも、ホン
 ダはファンの方を向いてはくれなかったということになる。


  確かに、大治郎の死に納得できない(しない)ファンの方が圧倒的に多
 い(俺もそのひとりだし)。
  きっと、心の底から納得できるとしたら、ホンダが
  「加藤選手のRC211Vにトラブルがあり、その結果事故に至りました」
  とでも言ってくれた場合だけなのだろう。
  それはあり得ないことだとも判っている。半ば諦めにも似た気持ちでは
 あるけれど。
  だが、責任の所在がどこにあるかは別にしても、原因を知りたいといち
 ばん願っていたのは、ご家族の方々を別にすれば、他ならぬファンたちで
 ある。
  なのに、半年かかって出てきた結果は「もやの向こう側」。おまけに、
 自社サイトに掲載した報告は「抜粋」。自分たちが設置した委員会の発表
 なら、責任をもってその報告の全文を掲載する義務があるのではないだろ
 うか?
  だいたい、誰のために調査したというのか?自分たちの正当性を改めて
 アピールするためだったのか? …思わずそう毒づきたくなる。
  最後の調査報告に至るまで、結局ファンの方をホンダは向いてはくれな
 かったわけだ。それがやりきれない。
  今回の調査報告会をもって、委員会は解散した。もう、事故の原因を検
 証・究明してくれるところは存在しない。
  この事故でホンダがしたことは、ファンを煙に巻くことだけだったのだ
 ろうか…。


  一方、問題を提起したい対象はホンダだけではない。マスコミに対して
 もだ。
  今回の調査報告が報道陣向けであった以上、マスコミはそれを受け、報
 告の内容をファンに伝える媒介としての義務を負っているはず。
  しかし、マスコミはあくまで報告の要旨しか記事にしなかった。日本の
 メディアではもっともモータースポーツを扱ってくれているトーチュウで
 すらも、その扱いはわずか2/3ページだった。
  新聞やテレビほどには表現の制約を受けないネットですら抜粋記事のみ。
 今回参考にしたrsj.jpの記事でさえ、一部が省略された抜粋記事(ホンダ
 公式サイトに記載された内容よりは記載量も多いが)だった。
  つまり、ここでもファンは置き去りにされているということだ。


  大治郎は、この状況を見たらどう思うだろうか。
  「どうして?」と問いかけても、もう答えてくれない彼は。


  ちなみに、現在のところ、報告書の全文が掲載されているのはこれだけ
 である(一部画像資料は割愛されているが)。

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