忍者・あ行



朱絹(甲賀忍法帖
 
伊賀の忍者。鍔隠れ十人衆のひとり。その姿は「皮膚の蒼白い、うりざね顔の妖艶な女」と描かれます。彼女の術は、全身の皮膚から血を噴き出すというもの。
朱絹の裸身は朱色にぬれていた。肩、腰、乳房―いちめん、淋漓と鮮血をあびて、
「勝負はまだっ」
 と、さけぶと、恐怖の目を見張っている鵜殿丈助めがけて、幾千万かの血のしずくをとばせた。おお!この女は血を吹くのだ。その全身の毛穴から、血のしぶきを噴出するのだ!
」(ノベルズp.47)
しかしこの術、目くらましとしてもだいぶ効率が悪いような気がするのですが。とはいえ、忍法比べで鵜殿丈助を倒し、また霞刑部の滅形を不可能としたのですから、やはり有効な術なのでしょう。
 目の不自由になった筑摩小四郎に恋情を寄せるような、愛すべき一面も持っていた朱絹ですが、薬師寺天膳に化けた如月左衛門によって倒されます。

芦名銅伯(柳生忍法帖

小豆蝋斎(甲賀忍法帖
 
伊賀の忍者。鍔隠れ十人衆のひとり。その姿は「からだが釘のように折れまがり、林をもれる蒼い斑にひかる髯は地を掃いている」と描かれます。姿は老人ですが、彼の忍法は長い手足を使った恐るべき打撃技です。
丈助は杉木立を楯にクルクルとにげた。それを狙って、蝋斎のひょろながい手、または足が、その尖端に目があるもののように追い打った。老人のからだは数本の木のこちら側にあるのに、その手や足は、鞭のように湾曲してはしるのだ。その襲撃の姿態は、章魚のように怪奇であった。この老人は骨がないのか。いや、その四肢の尖端が触れるところ、小枝、木の葉を刃物のごとく切りとばす威力をみるがいい。実に小豆蝋斎は、全身に無数の関節があるとしかみえなかった。その証拠に、その首、腰、四肢は、常人ならば決して湾曲も回転もしない位置、方角に、湾曲し、回転したからである」(ノベルズpp.35-36)
 さても強力な打撃技を持つ蝋斎ですが、蓋を開けてみれば、お胡夷に対して助平心を起こしたばかりに死ぬことになった気の毒な助平爺…かな。

穴目銭十郎(忍法忠臣蔵)

雨夜陣五郎(甲賀忍法帖
 
伊賀の忍者。鍔隠れ十人衆のひとり。「顔は水死人のようだが、その頸、手の甲なども、皮膚がウジャジャけて、青黴がはえているようなのだ」と、容貌については散々な書かれよう。陣五郎の忍法はまったくこの容貌に相応しく、塩に溶けてナメクジ様に小さくなるというものです。
なんたる忍者か! 彼は、塩に溶けるのであった。塩の中に体液が浸透して、塩とともに皮膚も肉もドロドロに溶けて、半流動の物体に変化するのだ。人体を組成する物質の六十三%は水であるから、彼が小児大の雨夜陣五郎に縮小するのもうなずけるが、そのかわり肉体はわけのわからない形相に変わり、運動はきわめて緩慢となる。しかし、その意思があるいじょう、この音もなく、粘液の帯をひきつつはいまわり、忍びこんでゆく男は、暗殺者としての使命を受けた場合、実に恐るべき忍法の所有者といわなければならぬ」(ノベルズpp.74-75)
 しかしこの術も本当に役に立つのか…まあ、小さくなる必要があるときには便利でしょうが。ともかく彼は鵜殿丈助を倒しています。しかし、朧には破幻の術で苦しめられ、次いでお胡夷に塩俵に放り込まれ、最後には霞刑部に海の中へ突き落とされと、『甲賀忍法帖』で一番酷い目にあっているのはこの忍者かもしれません。

 



筏織右衛門(忍びの卍
 根来・伊賀・甲賀の忍法審査における伊賀組の選手。「背は五尺九寸ほどもあろうか、あかちゃけた髪とまばらな髯が、頬骨のたかい顔をふちどっている。鼻は高く、やや三角形の眼は琥珀色であった。魁偉といっていい風貌だが、べつに沈毅重厚なものが全身をつつんでいて、一見、誰をも威圧するようなところはない」(ノベルズp.32)という姿は、『忍びの卍』にて描かれたる宮本武蔵の姿ですが、筏の容貌はそれとよく似たものとされています。容貌のみならず、剣の腕前も。しかし彼の忍法は、そのような古武士然とした人間の操るとは思われぬもの、すなわち「交合により、その相手の女体に乗り移り、時と場合によっては宮本武蔵直伝の剣を振るうことを辞さぬ忍法「任意車」」(同p.69)なのです。
 伊賀組を脱走した筏は、この忍法と虫籠右陣の「ぬれ桜」との掛け合わせによる「ぬれ車」とでも言うべき存在と化して、大奥に忍び込み、家光の命を狙います。また実験精神盛んな彼は、精液を七分三分に分けることによって二人の女性に乗り移ってみたりもするのですが、このあたりはいかにも山田風太郎的(^^; しかし、筏の目的は一体何だったのか、その謎は最後の大炊頭の言葉まで持ち越されたまま、彼自身は椎ノ葉刀馬の剣によって倒されることになります。

一ノ目孤雁(忍者月影抄



鵜殿丈助(甲賀忍法帖
 
甲賀の忍者。卍谷十人衆のひとり。弦之介の従者として伊賀へ赴きますが、その姿は「ダブダブとふとって」「樽みたいな」ものです。しかし、彼もやはり忍者、ただのデブではありません。異様な体術の持ち主なのです。
格子の幅は、腕ならともかく、子供でも頭の通らぬ間隔であった。まして常人よりはるかに大きい丈助の顔が、おしつけられて熟柿みたいにくびれがはいった。―と、見るがいい、はみ出した顔の部分がしだいしだいにふくれあがり、やがて頭全体が格子の外へ、まんまとぬけ出したではないか。次は肩だ。それから、胴だ。……」(ノベルズp.76)
 これも気持ち悪い忍法ですな。腕のみが入っていた格子の外にいつの間にか頭から胴からが移動しているというのですから。かくも奇怪な忍法を持つ丈助ですが、小豆蝋斎との忍法比べでは勝ったものの、助平心を出して戦った朱絹には敗れ、最後には尋問していた雨夜陣五郎から水中で逆に殺されてしまいます。

瓜連兵三郎(忍法忠臣蔵)

漆戸銀平次(信玄忍法帖)

漆戸虹七郎(柳生忍法帖



箙陣兵衛

 



小笠原幻夜斎

朧(甲賀忍法帖
 
伊賀の首領お幻の孫娘。甲賀の首領である甲賀弾正の孫弦之介とは許婚であり、また相思相愛の仲でありましたが、徳川家の継嗣選びの忍法勝負のために二人の仲は引き裂かれます。薄明の中においても彼女には光が射して見える、まさしく伊賀のジュリエットと言うべき美少女。彼女は忍法を習得できなかった奇妙な忍者ですが、ただ一つ、天然に身につけた、破幻の術を使います。
おどろくべきは、朧の体得している破幻の術だ。いや、彼女はべつに修行して体得したのではない。術というのもあたらない。彼女が、ただ無心につぶらな目をむけるだけで、あらゆる忍者の渾身の忍法が、紙のように破れ去るのだ」(ノベルズp.70)
 彼女は戦いをきらって、自ら七夜盲の薬を塗って目を潰し、術を封じますが、物語も終わり近くになって薬の効き目が切れたとき、甲賀者の誰もが倒し得なかった味方、薬師寺天膳の不死の術を破って死なせます。最後は甲賀弦之介との果し合いにおいて、自ら胸を突き刺しました。

折壁弁之助(忍法忠臣蔵)


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