忍者・は行



破軍坊(伊賀忍法帖
 果心居士の弟子であり、松永弾正の配下となる忍法僧の一人。彼は空摩坊と力を合わせて、今際の際に大技を見せます。
「ふたりの法師〔破軍坊と空摩坊〕は卍の朱文字をえがき終わると、化鳥のようにさけんだ。
「燃えろ。―
忍法火まんじ!
 すると、卍の中心の、両者の血の交わった地点からメラメラと青い炎が立ちのぼった。
 とみるや、その炎がぽっと飛んだ。そこにあった血のあとが、また燃えあがったのである。息つくひまもなく炎はまた飛ぶ。(中略)
 最初、おのれのながした血のあとをたどって、ぽっぽっと点線状に燃えあがっていた破軍坊と空摩坊の忍法火は、今や蛇のごとく―生ける炎の蛇のごとく城太郎を追ってきた」(ノベルズpp.233-6)
 
どうでもいいことですが、「火まんじ」と書こうとすると「肥満児」になってしまいまする。ともかく、この忍法を用いた時点で既に城太郎の手で致命傷を負っていた破軍坊は、冥土の土産に漁火と交わりながら死んで行きます。

 



平賀孫兵衛(柳生忍法帖

 



風天坊(伊賀忍法帖
 果心居士の弟子であり、松永弾正の配下となる忍法僧の一人。その姿は「ヒョロリと背が高いが、鞭のようにしなやかな体躯だ」と描かれます。彼は鎌をブーメランのように投げる「鎌がえしの忍法」も使いますが、恐るべきは下記の術。
「風天坊は、高欄から底なしとみえる大空へ飛び出したのである。その墨染めの衣が蝙蝠の翼のようにひるがえった。―しかも、彼は下界に落ちない!
「忍法枯葉がえし!」
 怪鳥のような絶叫が虚空からまだ消えぬうち、この人間ブーメランは高欄にふたたびもどって、どんと音たかく金剛杖をついて仁王立ちになっていた」(ノベルズp.18)
 しかし、笛吹城太郎との一対一の戦いでは空中で飛びつかれてバランスを崩し、あっさりと首を落とされてしまいます。

笛吹城太郎(伊賀忍法帖
 
『伊賀忍法帖』の主人公である、伊賀鍔隠れの忍者。「青春美の結晶」と描かれる魅力的な容貌と、野獣的な生命力の持ち主。乳守の里の遊女篝火と駆け落ちするものの、伊賀への帰途の途中で松永弾正配下の忍法僧たちに篝火を攫われます。その後篝火の死を知った城太郎は、復讐鬼と化して忍法僧と松永弾正を狙うことになります。忍法僧を一人一人消して行く過程は、立場を変えればあたかも恐怖小説のようです(むろん城太郎の方が恐怖を与える側です)。物語の最後において、果心居士の弟子とされて異界へ連れて行かれた模様。
 城太郎は特に名のついた忍法を使いませんし、作品の最後まで生き延びます。その点で、彼は忍法帖に登場する普通の忍者とは立場を違えます。彼の位置は、『柳生忍法帖』における会津の女性、『江戸忍法帖』の葵悠太郎などと同様なものでしょう。

不破梵天丸(忍者月影抄



 

 



蛍火(甲賀忍法帖
 
伊賀の忍者。鍔隠れ十人衆のひとり。姿を見れば「小柄な、むしろ可憐な感じをあたえる娘」なのですが、頭に蛇を載せていたりするおっかないくの一です。彼女の忍法は、蛇を戴いた姿からも察しがつくように、蟲を操る術です。
「蛍火はこの地上のありとあらゆる爬虫昆虫を駆使するのであった。蛇をつかうのは、彼女にとって、ほんの小手業にとどまる。それは忍者にかぎったことではなく、ほかに世にないでもないが、一念、人間の感覚の識閾外の何かを放射して、野にねむる蝶をさまし、天に舞いたたせ、地に呼びよせるのは、実に忍法以上、まさに変幻不可思議の秘術とたたえても、だれしも異論はあるまい」(ノベルズp.63)
 彼女は蝶の鱗粉によって風待将監による唾液の蜘蛛の巣を破っており、また甲賀の里から逃れ出る際の目くらましにも蝶を使っています。さらに、蛇を使って甲賀弦之介の目を潰すという、伊賀方最大の働きをしているのも彼女なのです。しかし、最後は蓑念鬼に化けた如月左衛門によって、蟲を呼ぶ間もなく倒されます。


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